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3月、いよいよ春と言う時期になりました。
陽射しもぽかぽかとしてきましたし、日が長くなりましたね。
冬の間、仕事帰りは真っ暗だったのが、うまくすれば夕焼けを見ながら帰ることもできるようになりました。
仕事帰りに見る夕焼けは、本当に心がほっと洗われます。

春と聞くと、ふと思い出す俳句があります。
俳句って、不思議です。どこかで耳にして(目にしたのかな)、記憶に残っているのだけど、あれ、誰の句だっけ?と、そこは忘れている(笑)
あ、これって私だけかしらん(^^;
春に思い出す句がふたつあるのですが、調べてみたら、どちらも与謝蕪村でした。
ひとつは、


    春の海 終日(ひねもす)のたりのたり哉


いいですねえ。目の前に、あの眠そうなほど穏やかな、温かみのある青をたたえた海が見えるようです。
「のたりのたり」と言う表現、まさにぴったりですね。
春に海を見ると、思わずこの「のたりのたり」が、口をついて出そうになります(笑)
そして、もう一句は、


    菜の花や 月は東に 日は西に


なにやら、とても親しみやすい句に思えて、知らず頭のどこかに残っていたのですが。
よくよく考えると、これはまた素晴らしくいい光景なのですね。
月は東、日は西、と言うことは、夕暮れ近い頃なのでしょう。
日は西に傾き、そろそろ沈もうとしている時、すでに東の空には月が見えている。おそらくまだ色も淡く、透き通るようなのかもしれません。
そして、沈もうとする太陽と、上ろうとする月を見上げるように、菜の花が咲いている。
菜の花って、たくさん群れ咲くのが似合いますよね。だから、これは菜の花畑の風景なのかもしれない。
のどかな、美しい夕暮れ時の菜の花畑。そんな光景が思い浮かびます。

続いて、こちらは詩なのですが、これまた春になるとふと思い出す、私の大好きな詩があります。
確か、高校の時の教科書に載っていたのだと記憶しています。
三好達治さんの「甃(いし)のうへ」と言う詩です。


    あはれ 花びらながれ おみなごに 花びらながれ

    おみなご しめやかに 語らひあゆみ

    うららかの跫(あし)音 空にながれ

    をりふしに 瞳をあげて

    翳(かげ)りなき み寺の春を すぎゆくなり

    み寺のいらか みどりにうるほひ

    廂(ひさし)々に

    風鐸(ふうたく)のすがた しづかなれば

    ひとりなる

    わが身の影を あゆまする甃(いし)のうへ



教科書で、目にしたとたん、心惹かれた詩でした。
なんとも美しい、古き良き日本の情緒と、なんとも言えない清らかな空気を感じました。
「おみなご」と言うのは、乙女、と言うよりもうちょっと少女に近いらしいのですが。
私のイメージでは、昔の女学生と言った感じ(笑) 礼儀正しくて、清楚な少女たちが、静かに語り合いながら、春の陽射しの浴びたお寺の近く、あるいは境内を歩いている。
そして、それを目にする「ひとり」の自分がいる。
お寺の清浄な空気と、静けさと、春の明るさ・・・美しい光景が目に浮かび、心がしんと澄むような気がしたものです。

もしかしたら、こういう詩に巡り合っていたおかげで、今、拙くも言葉を綴っている自分がいるのかもしれない。
そんな気さえするのです。
実は、私はあまり詩集と言うのを読んでいません。有名な詩人さんの作品も、知らないものが多かったりします(^^;
でも、数は少ないながら、心になんとも言えない光景を残してくれた、いくつかの詩があり、今もその感動が折に触れ蘇る。
そんなふうに、誰かの心残る詩を、いつか書けたらいいと言う思いがあるのかもしれません。

言葉って、不思議ですね。日本語は繊細で、美しいです。
日本ならではの情緒も、きっと日本人の心には、なくてはならないものなのかもしれません。
忙しい日常の中でも、ふと思い出して、心を落ち着かせたい。
そんな気がします。
日本の春も、美しいですね。
どうぞ、みなさんも良き春をお迎え下さい。


平成20年3月1日
                                                          
涼   
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