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「ジェニーの肖像」はロバート・ネイサンの書いた、ファンタジーの香りのする、ちょっと不思議な恋愛小説です。
恋愛ものはまず読まない私がなぜ?と言うと、実はこれまた恩田陸さんがらみでして(^^;
恩田さんの書かれた「ライオンハート」と言う小説を以前に読みました。
ミステリー作家の恩田さんにしては珍しい「異色のラブストーリー」とあったので、さて、どんな話だろうと読んでみたら、これがやはり謎に満ちていて、それでいて確かにラブストーリーらしい切なさもあり、面白かった(笑)
で、その後書きにこの「ジェニーの肖像」がヒントになったと書いてあったので、興味を引かれたと言うわけです。
こういう芋づる式の興味って、けっこう持ってしまう人>σ(^_^;

貧しい青年画家が夕暮れの公園で出会った一人の少女ジェニー。
たまたま彼女を描いたスケッチが、画廊主の目に留まり、画家は少しずつ仕事に恵まれて行きます。
その後、何度かジェニーと会い、彼女の絵を描く画家は、短期間のうちなのに、会うたびにジェニーが成長していることに気づきます。
この場合の成長は、文字通りの成長。普通では考えられないほど早く年を重ねていると言うことです。
どこに住んでいるかもわからず、ふいに現れて、ひとときの淡い幸せを残し、消えるように去って行く少女。
そして、不思議な時間の中に生きているらしいジェニーに、いつしか心惹かれて行く画家。彼はただ、次にジェニーが訪れる時を待つしかできない。
ジェニーは別れ際に言います。
またいつか戻ってくるから。あたしを待っていて」と・・・

恋愛小説と言うには、ちょっとあっさりかな、わりと短いですし(^^;
ストーリーは季節の情感や画家の心情を織り交ぜながらも淡々と進み・・・
急転直下、あっけなくラストとなります。
ジェニーに関する謎は、はっきりとした解決を見せることなく、ふわっと霧の中に溶け込むように終わってしまう感じ。
でも、主人公は自分なりに納得していたのだろう、と思います。
いえ、謎がどうあろうと、とにかく自分にとってはジェニーが、ジェニーにとっては自分が、運命の人であることを確信していたのでしょう。

そして、この小説からヒントを得て書かれたと言う恩田陸さんの小説「ライオンハート」。こちらはさらに「運命の人」と言う存在がドラマチックな色合いで描かれています。
「ライオンハート」では、一組の運命の恋人同士が様々な時代、様々な場所で、様々な年齢の男女として、幾度も巡り合い、その様子がオムニバス方式で綴られています。
それは、1600年代のロンドンであったり、1870年代のシェルブール、1900年代のパナマ、1930年代ロンドンと言ったふうに。
時には失意の青年と黒いコートの少女として、時には戦場から逃げてきた青年と美しい女性として、あるいは老齢に達した教授と若い女性記者として・・・
出会い方も様々で、ひとつひとつの物語の最後に二人の関係の謎が、ふっと解ける。それがとても感動的です。

たいていの場合、どちらかは相手が運命の人であることを知っていて、その人に会うための道を必死に辿ります。
時代を超えても、運命の人の名前は変わらない。
エドワードとエリザベス・・・それが相手を探す手がかりとなるわけです。
そして、どの時代のどの境遇でも二人は巡り合い、惹かれ合う。けれど、それはいつも一瞬のこと。
二人は決して結ばれることなく、引き裂かれる運命なのです。
なぜ結ばれないと決まっているのに、こうして巡り合い、惹かれるのか・・・
ようやく逢えて、心が歓喜する一瞬後に、二人には再び別れが訪れる。
けれど小説の中で、エリザベスは言います。

いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ

そして、またどこかの時代に、どこかの場所で巡り会う時を待つ・・・
これこそ、まさに純粋なる恋の醍醐味。このひとときの大いなるときめきのためだけに、二人は何度でも巡り合うのかもしれない。
このお話に、きっと結末はないのでしょう。
繰り返される運命の輪の中で、またどこかで一組のエドワードとエリザベスが出会っているはずなのですから。
ファンタジーとして捉えなければ、いろいろと謎だらけのお話です。
でも、読んでいて不思議な感動を覚えました。それは、もしかしたら自分の中にある「運命の人」への憧れかもしれません。
いい年をして、と笑われそうですが(^^;

「運命」と言うのは、別に恋人だけではないかもしれない、家族でも友達でも、たまたま知り合った人でも。
物であるかもしれないし、仕事や趣味、何によってもたらされる感動だったりもするでしょう。
巡り会ったことで、自分の中の世界が変わるような何か・・・
いいえ、そんなにおおげさでなくとも、ささやかな運命を感じさせるものに、人は何度も巡り会っているのでしょうね。
そして、どこかにまだ大いなるステキな運命が待っているかも・・・
なんて想像してみちゃうのもいいかな、たまには(笑)


平成17年11月1日
涼      
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