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あちこちで、紅葉の便りが聞こえ始めています。
今年は、どうやら例年より暖かな秋だったようですが、それでもさすがにだいぶ気温も低くなってきましたね。
すでに、紅葉狩りを楽しんだ方もいらっしゃるでしょうか。

さて、話題に困った時に引っ張り出すのが、百人一首(笑)
今月は、ずばり紅葉を詠った和歌に注目してみました。
その季節ならではの鮮やかさを歌にするとしたら、春の桜、そして秋の紅葉と言うのが、まず浮かぶように思います。
そこで・・・数えてみました(^^;
百人一首の中で、花(桜)を詠んだ歌は、7首。紅葉を詠んだ歌は6首。
(もしかしたら、私の見落としがあるかもしれませんが(^^;)
う〜む、さすがにいい勝負ですね(笑)
紅葉を詠った中で、私が好きなのは、在原業平の歌です。


 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは

                            (在原業平)



「くくる」と言うのは、絞り染めのことだそうです。竜田川に紅葉がたくさん散って、その様がまるで唐紅色に水を染めたようだ、と。
そして、このようなことは神々の時代にも聞いたことがない、と。
それほどに、おそらく信じられないほどの鮮やかな美しさを、目の前にした思いが詠ませた歌なのでしょう。
「からくれなゐ」と言う響きが、とてもいい風情で、見事な赤を連想させ、しかもそれが水の流れに乗っていく様が、目に浮かぶようです。

竜田川とは、奈良県の斑鳩町竜田にある竜田山を源とする川で、いにしえより紅葉の名所だとか。
ちなみに、竜田山には竜田姫と言う、秋の女神が住むと信じられてきたそうです。なにやら素敵なお話ですね。
百人一首の中には、もう一首、竜田川の紅葉を詠んだ歌がありました。


  嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり

                          (能因法師)

                                

こちらも、山から吹き降ろされた紅葉が、竜田川に流れる様が錦のようだと詠っています。
確かに、桜と同様、紅葉も木々を彩っている姿はもちろん、散り敷いた様もまた美しいものです。
いにしえの奈良の都、私の中では、桜は吉野山、紅葉は竜田川と言うイメージがインプットされてしまっています(笑)
もちろん、竜田川以外でも紅葉は詠われています。


  奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき

                         (猿丸太夫)


  このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに

                          (菅原道真)


  小倉山 峰のもみじ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ

                          (藤原忠平)


  山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり

                          (春道列樹)          


紅葉を詠んだ歌は、どれもその美しさを称えるようなものや、紅葉に寄せて、秋の寂しさを詠ったようなもの。
これは、春の桜も似た傾向にあります。むしろ、桜の方が、桜の散る様に人の身の寂しさを重ねている歌が多いかもしれません。
百人一首には、切ない、悩ましい、狂おしいと言った恋を詠ったものもたくさんあるのですが、なぜか美しい桜、そして鮮やかな紅葉と共に、恋しい人のことは詠わないらしい(^^;
四季を彩る自然の美しさのみに、純粋に心を動かされるからでしょうか。

もしかしたら、現代の俳句に季語がひとつと決まっているように、和歌も詠む際に、自分の中で題材をひとつ決めていたのかも・・・
桜なら桜、紅葉なら紅葉、恋なら恋、と。
紅葉の歌の中に、神と言う言葉が使われているものがあるのも、ちょっと目を引きます。
菅原道真の歌の中の、「神のまにまに」と言うのは、「神のお心のままに」と言う意味。
この歌は、朱雀院が退位後に旅行された時に、随行した道真が詠ったものだそうです。
「山の紅葉の錦を捧げものとしますので、神のお心のままにお受け取り下さい」と。

神々の時代にすら聞かれなかったであろうほど、鮮やかな紅葉。
神への捧げものとするにふさわしいほど、美しい紅葉。
あまりにも美しいものに対し、人は神々しいような思いを抱くのかもしれません。
今年の秋、ぜひとも、そのような紅葉に出会いたいものです。
さて、みなさんは紅葉狩りのご予定はありますか? 
                   


平成20年11月1日
                                                          
涼       



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