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8月下旬からの体調不良が、ようやく元に戻るのに、ほぼ一ヶ月かかってしまいました。
やれやれ、なんとも回復力の低下していることよと、我ながら情けない思えるのは、今になってから。不調の間は、何かと気持ちも沈み、ついついすべてのことにネガティブになってしまっていたものでした。

こんな時の必要なのは、気分転換。とは言え、体調がよくないとなると、できることは限られています。
やはり、読書ですね。読んでいる間は、自分のことから離れて、本の世界に入り込める。
ただし、体力も気力も落ちていますから、あまり刺激の強いもものや、暗い気持ちになりそうなものは避けたいところ(^^;
そこで、体調不良の間、私が読み続けていたのは、畠中恵さん。
江戸を舞台とした、ほのぼのファンタジーの世界です。

代表作は、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、以前ドラマ化もされた「しゃばけ」。
私が「しゃばけ」を知ったのは、ドラマからでした。
単発の2時間もの、そのドラマのCMを目にして、まず印象に残ったのがタイトル。
「しゃばけ」、意味はわからなかったのですが、なにやらとてもインパクトのある響きだこと、と(笑)
どうやら、妖怪らしきものが登場するらしいと知り、てっきり「しゃばけ」とは、妖怪の別名かも、なんて思っていたのです(^^;
「しゃばけ」、漢字で書くと「娑婆気」。字面は、ちょっと不気味そう(笑)
俗世間における、名誉・利得など様々な欲望にとらわれる心、と言う意味だそうです。

そんなわけで興味をそそられ、見たドラマは、かなり現実離れしてはいましたが、気軽に楽しめるものでした。
ただ、妖怪が実写で登場となると、どうしても一種のB級感(すみません!)が漂う気がしてしまう(^^;
いえ、メイクやCGの技術云々と言うより、きっと妖怪と言う存在のイメージ自体が、怖さと面白さの、どっちに転んだらいいんだ?みたいな感じがしてしまうせいか、それが実写だとさらに作りものっぽさが拭えなくなる(^^;
とにかく、ドラマ全体の出来としてみると、いささか微妙かなあ、と言う感じではあったのですが、でも私の中では、決して嫌いな世界ではないことに気づいていました。
そこで、さっそく原作をGETしたものの、他の本を先に読んだりと、ずっとほったらかしになっていた(笑)
体調不良のおかげで、ふと、「あ、あの本があった」と読む気になったのでした。

舞台は江戸。廻船問屋と薬種問屋を兼ねた大店(おおだな)、長崎屋の跡取り息子、若だんなと呼ばれる一太郎が、お話の主人公です。
この若だんな、年は17、とても気の優しいおっとりした性格。ですが、とにかく身体が弱い。外出もままならず、何かと言うと寝込むわ、死にかけるわと言う、筋金入りの病弱なのです。
そうでなくとも、長崎屋の一粒種。その上に病弱とあってか、両親の甘いことも筋金入り。
朝、何事もなく起きてきただけで喜ばれ、無事にご飯を食べただけで安心され、・・・(笑)
箱入り娘どころか、厳重な金庫にでも入っていそうな若だんなですが、内心は、そんな自分を情けなく思ったり、両親に申し訳なく思ったりと、どこまでも素直でかわいいのです。

若だんなの世話係、常に側にいて、ひたすら過保護に面倒を見るのが、長崎屋の二人の手代、仁吉と佐助。
この二人、実は人にあらず(^^; それぞれ、白沢、犬神と言う、年を経た力のある妖(あやかし)で、若だんなが小さい頃に、今は亡き祖父が連れてきて、若だんなを守らせているのでした。
他にも、若だんなのいる離れには、家のあちこちで軋む物音を立てると言う鳴家(やなり)と言う小鬼や、屏風の付喪神(つくもがみ、器物が百年の時を経て成る妖怪)である屏風のぞきをはじめ、様々な妖たちが顔を見せます。
若だんなの特技(?)は、人には見えない妖を見ることができ、さらに話しもできること。
それがなぜか、と言うのは、ネタばれになりますので(^^;

江戸の町に起こる、不可思議な殺人事件。たまたま家を抜け出した時に、犯人に行きあってしまった若だんなが、妖たちに助けられながら、事件の解決に挑む。
「しゃばけ」は、そんなお話です。
病弱な若だんなは、そうそう自力で活動できない、いわゆる安楽椅子探偵と言う感じに近い。
そこに耳寄り情報をもたらしてくれるのが、あちこちにひそかに跋扈する妖たちと言うわけです。
実際に若だんなが動く時には、力持ちの佐助や、もの知りの仁吉が一緒にいて助けてくれます。
とにかく、行動を起こそうとするたびに、心配され、止められる若だんなですが、それでも困っている人をほっとけないし、謎への興味も津々。
その聡明さと意外なほどの度胸の良さで、難事件を解決に導きます。

けっこう血なまぐさい事件の中、若だんなが危機に陥ったりもするのですが、全体を通しての独特のゆるい感じが、刺激をやわらげています。
若だんなのおっとりしたしゃべり方や雰囲気も、ほのぼの感を強めるし、個性的な妖たちや、周りの人間の動きを追いかけながら読むのも楽しい。
なんだか漫画のような・・・と思ったら、それもそのはず。
著者の畠中さん、最初は漫画家としてデビューしたとのこと。なるほどと納得しました。

時代考証はしっかり押さえ、お江戸の風情を表現しつつ、でも江戸に関してさほど知らなくても気軽に楽しめるお話だと思います。
活気と、のどかさ。そのバランスのいい江戸の町を想像しつつ、さらにたくさんの妖たちの姿や、それに囲まれる若だんなを思い描く。
ゆるゆるとした、漫画的な楽しさに惹かれ、ついつい「しゃばけ」シリーズ、「ぬしさまへ」「ねこのばば」「おまけのこ」と言った短編ものも、買い揃えてしまいまいました(^^;
どちらかと言うと、短編の方が楽しいかもしれません。お馴染みの周りの面々が、ちゃんとお約束通り登場しますし、彼らが主人公になるお話などもあり、さらに世界が広がります。

全体に、ミステリー仕立てになっていますが、どうしても謎に妖が係わってきたりすると、現代もののミステリーのような鋭さは薄れるかな(^^;
むしろ謎を通しての人間模様や、妖たちのちょっとずれた感覚など、異世界でありながら、どこか身近でなつかしい感覚を楽しみたい。
短編集の中で、若だんなの異母兄のお話や、手代の仁吉の長年に渡る思い人のお話など、とても好きでした。

この短編短編シリーズ、テレビの連ドラでやってくれたらいいのに(笑)
以前の、単発のドラマでの配役、特に若だんなと手代二人は、まさに適役でした。
若だんな役の手越祐也くん、なんともかわいらしくて、素直で優しい若だんなにぴったり。
手代の仁吉は、谷原章介さん。涼しげな男前で、冷静沈着。この人しかいないでしょ、って感じでしたし、力持ちでちょっとコワモテ、佐助役の高杉亘さんも似合っていました。
メイン3人が、これほどぴったりなんだから、単発で終わってしまうのはもったいない。
ぜひ、シリーズ化してほしいものです。

ちょっと不思議で、ほのぼの可笑しい、でもしんみり切なさもあったり。お江戸の町へタイムワープの気分で楽しみたい「しゃばけ」の世界でした。


平成20年10月1日
                                                          
涼       



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