ま幸くあらば



波が白く砕ける


その白さを宿したまま
砂を走り砂に消えて行く


あとには何も残さず


くりかえしくりかえし
波は寄せ
無心に砕け
泡と消える


わたしは
冷たい風に頬を打たれながら
その様をみつめている


心に落ちる
ひとときの静寂



わたしが置かれている立場も
これから先起こるであろう出来事も


すべては
果てない海の片隅で
くりかえし消えて行く波のようなもの


なんと
儚くささやかなひとこま


目を閉じれば
ただ虚空に漂うごとく
ひとり立ち尽くすわたしがいる


何を恐るることがあるだろう


誰が
わたしの罪を裁くと言うのだろう


皇子としての誇りが
胸の中に
凛と澄み切った音を立てる


寄せ来る波に呼応して
何度もきわやかに響き渡る


その誇りが
わたしにこうべを上げさせるのだ


恥ずることなどない


すべてを
まっすぐに見据えていればよい


誰のまなざしをも
わたしは怖じずに
しっかりと見返すだろう


宿命(さだめ)は天に任すのみ


たとえ
どちらの道を示されようと
わたしは微笑んで歩き出そう


流されるのではなく
あるがままの命運を
きっぱりと受け止めよう


それこそを
己が意志として


浜を彩る緑の松よ


せめてものしるしを
おまえに残して行こうか


もしやもう一度
この浜に戻った時のために


吹きさらす風にも
おぼつかない砂にも
むせぶような波音にも負けず


鮮やかな緑を結ぶ
この松の枝に
わたしの祈りをこめて


ま幸く(まさきく)あらば・・・