魂    魄

          
― 姜維に捧ぐ ―


我が志を継ぎし者よ


わたしはおまえに
何を残せるだろう


数限りなく積み上げたる書物を?
知恵を尽くした戦略を?
民のためとなる政(まつりごと)の心得を?


すべてを自ずから伝えるには
わたしの時間は
なんと少ないことだろう


不思議な縁(えにし)によって
我が元へと降りたる若き武将


類まれなるその勇
ひらめきたる才知
そして熱き心情


たとえ縄を打たれ
膝を屈すると言えども
まなざしはまっすぐに我を見据え
決して卑怯には流れない


おまえの輝かしき誇りが
このこころを捕らえたのだ


わたしはすでに
多くのものをなくしてきた


翔けても翔けても届かない
天の高みを目指すために
どれほどの貴い命が砕け散ったことだろう


それでもまだ
翔け続けなくてはならない


この翼とて
いつかは力尽きる


後に引き継ぐのは
甘い夢などではない
耐えがたく重いこの国の命運なのだ


それほどにも過酷な道を
おまえは歩いてくれるのだろうか


わたしは
まだ迷っている


最期の瞬間まで
そばで見ていてほしいと願いながらも


託せるのはおまえだけだと
信じながらも


この先どれほど苦しむのであろう
おまえの未来に対して
頭を下げずにはいられない


その瞳に暁の光を宿せし者よ


わたしのために
頷いてくれるのか


唇を引き結び
凛と紅潮する頬を上げ
それほどにも力強く頷いてくれるのか


おまえこそが
わたしの手に最後に残った希望だ


どうか
ひたむきなる熱情を胸に
どこまでも翔けぬけよ


たとえ
遥かなる星に姿を変えても
わたしはおまえを見守り続けるだろう


我が雄々しき後継者よ


その志の煌きが曇ることなきよう
魂の底から祈らん