切り札

                     ― 曹操に捧ぐ ―


人の運命など
いわば賭けのようなもの


選び取った札が
どれほど強くあろうとも
相手次第でひっくり返される


そのあっけなさと
綱渡りのような危うさ


だからこそ
わたしは挑むのだ


相手の切り札は何なのか?


あらゆる智恵を駆使し
感知の泉を澄みきらせて


わたしは一枚の可能性を
この手に握る


君主(きみ)よ


それはそのまま
あなたの運命をも
左右してしまうだろうに


あなたはいつも
わたしに向かって
不敵に頷いてくれた


信頼の重さとは
なんと心地よいのだろう


決してあなたに
負けの惨めさなどなめさせはしない


あなたには常に
真紅の歓声に包まれていてほしい


ずっと
そう思いながら
最強の策を捧げてきた


あなたの賞賛のまなざしほど
わたしを酔わせたものはない


振り返れば
眩しさが胸に迫る日々


不思議なほど
遠く思えるのはなぜだろう


今わたしは
危地に赴くあなたを
力なく横たわったまま見送っている


皮肉なる運命よ


この手に残されたのは
まぎれもなく
死を暗示する札


わたしは
自分自身との戦いに
負けてしまうかもしれない


いや いいのだ
そんなことを嘆いたりはしない


ただあなたに
ついていけないことだけが


あなたの誇らしい姿を
見届けられないことだけが
切ない焦りを生む


我が君主(きみ)
どうか
わたしのために嘆きたもうな


こんな中途での退場者に
哀れみなどかけたもうな


あなたは
何事もなかったように平然と
さらなる戦場へ
駒を進めてほしい


あなたの周りには
才ある者が溢れているのだから


わたしは
わたしの命と引き換えに
あなたが
勝利の旗を掲げられるよう
微笑みながら祈ろう


それが
わたしの最期の切り札


燃え盛る炎のごとき君主(きみ)
振り向くなかれ


その頭上に
栄光と言う名の冠
輝き放たんことを