陽    炎

                         ― 額田王に捧ぐ ―



思えば
不思議な乙女だった


まっすぐな瞳と
清らかな頬
笑みをふくんだ口元


だがそのまなざしは
いつも私をすり抜けて


風の中にたゆたい
月の光に冴え渡り


儚いほど遠く


いったい何を
みつめていたのだろう


その耳が聴いていたのは
私の言葉ではなく
おまえだけに聞こえる
神の声だったのだろうか


その神は
何を告げたのだ?


そんな問いを
口にすることもなく
私はただ
目の前の鮮やかな姿を
捕らえようとした


しかし


私が手にしたぬくもりは
陽炎のように
なんとたよりないことか


柳の枝のやわらかさで
この腕の中に
ほほ笑みながら


ふと気がつけば
おまえのこころは
遠いところで
神の声を手繰っている


おまえが惹かれていたのは
天を統べる神なのか


それとも もしや・・・


絡み合った糸のように
さまざまな運命が
もつれて行く


真実の想いほど
深く閉ざされ
見えないものなのかもしれない


それでも


私は今でもおまえを
追いつづけている


たとえ
抗うことのできない力に
引き摺られて行く
おまえであっても


いつまでも
想いつづけている


匂うようなほほ笑みを
咲き乱れる花の中に
さらって行った


あの懐かしい日のままに