殉     愛

             
― 大津皇子に捧ぐ ―


あなたはいつも
わたしの目の前で
羽ばたきを繰り返す鳥のようでした


若くたくましい翼は
おおらかに空を翔けまわるため


光に煌き
風に乗り
花を愛で
朗々と歌い


そんなあなたを
わたしは
誰よりも近くにいながら
誰よりも遠いまなざしで
みつめているしかなかった


美しい鳥に
幾多もの賞賛が集まるのは
仕方ないことと


ひっそりほほえんで


ただ 妃と言う椅子に座り
あなたを待つしかなかった


それが
わたしのせいいっぱいの
愛し方だったのです


けれど


今わたしは
すべての明日を捨てて
あなたに付いて行きます


いわれなき罪に落とされ
捕われの身となるあなた


輝ける路を閉ざされ
絶望の淵に沈まんとするあなた


こんな時になって
ようやく心のままに
あなたを追うことができるなんて


皮肉な宿命


それでもいいのです
あなたのそばに行けるなら
悔いたりしない


どうか
叱らないで下さい


あなたと歩く黄泉路なら
どれほど恐ろしくてもかまわない


ついてきてはいけないなんて
おっしゃらないで下さい


あなたに遅れをとらぬよう
沓(くつ)など脱ぎ捨ててしまいましょう


裸足のまま
胸いっぱいの想いを抱きしめて
駆けて行きましょう


追いつけたなら


振り向いて
この手をとって下さいますか


わたしだけが
あなたの妃なのだと


笑って
頷いて下さいますか


いとしい方・・・



(壁紙 みづきさん)