いとし名



わたしには
こころがないとおっしゃいますか


ひとではないから


この庭の片隅で
長い時を重ね
ひとつの季節だけを待ち


風と光と雨と
足元の草に囲まれて
ひっそりと咲いていた
そんなわたしに


あなたはふいに
名と言う呪(しゅ)をかけて下さった


はじめて聞く
美しいその名


やわらかな声で
あなたに呼ばれるたびに


わたしは奮え
言いようのない幸福が
次々とつぼみになり


あなたにみつめてほしくて
今まで咲き続けていたのです


この姿は仮のもの


たとえ
ひとの形をとり
色とりどりの絹と
長い黒髪で装おうとも


あなたに触れることすら
叶わないけれど


それでも
あなたのお役に立てるなら


あなたが
わたしを呼んで下さるのなら


いつまでも
お側にいたいと思ってしまう


散り行く時が来たとしても
また季節が巡れば
あなたのもとに咲くことができるから


来る年も来る年も
鮮やかに蘇って


そして


あなたの
透き通るような微笑を
そっと眺めていたいと願ってしまう


これは


このあたたかなものは
こころではないのでしょうか


どれほど時を重ねても
ひとではないわたしに
こころが宿ることはないのでしょうか


あなたは
何も答えては下さらない


ただ
静かな横顔が


いつものように
涼やかな響きで呼ぶだけなのです


生まれて初めて
わたしに与えられた
いとしい名を