今月の「いにしえ人」

大海人皇子
如月・・・

今年の冬の寒さは、例年に比べぐっと厳しいものです。
この分だと、梅が咲くのも遅れるかな、と思ったりするのですが。
それでもやはり二月の花と言うと、なんとなく梅を思い浮かべてしまいます。
そして、梅の花から連想する人物の中に、大海人皇子が入ってくるのはこれも小説の影響大なのでしょうが(^^;

飛鳥時代にはまったきっかけとなった、井上靖さんの「額田女王」。
神の声を聞くことのできる巫女として、一種近づきがたいような美しさを持った額田王を見初めた大海人皇子。
なんとか気持ちを引こうと思いますが、相手はなかなか手ごわい。
とは言え、大海人皇子は帝の皇子なのですから、額田王としてもあまり失礼なことはできません。
ある時、大海人皇子から梅見に誘われた額田王は、せいいっぱい美しく装って出かけます。
ところが、やってきた大海人皇子は「梅はもう散ってしまった」と言うのです。

「今日は梅を見るために来ましたのに」と言って帰ろうとする額田王に、「ならば見せてやろう、少し遠いが」と大海人皇子はいきなり馬上から額田王を横抱きにし、走り出します。
額田王は、髪も乱れ、かんざしも落ちる中、ただ地面をみつめている。しばらく走ってから、馬の背に持ち上げられますが、大海人皇子の腕に抱え込まれている格好で、何も考えられません。
夕暮れの中、ようやく馬から下ろされると、そこは見事な梅林。
夢うつつのまま、地方の豪族の家らしきところへ案内され、大海人皇子と結ばれることになるのです。
このスリリングで鮮やかなシーンのせいか、梅と言うと額田王とセットで(失礼!)、大海人皇子も思い出されるのです。

さて、前置きが長くなりましたが(笑)
大海人皇子、後の天武天皇。兄は後の天智天皇となる中大兄皇子。
智謀に長けた冷徹な兄、無骨で重々しい弟、と言うイメージにどうしても傾いてしまいやすいようですが・・・。
確かに、帝にならずとも真の執政者として力を振るう中大兄皇子に比べ、大海人皇子はいまいち目立ちません。
なにせ、中大兄皇子と中臣鎌足のタッグが強烈ですものね(^^;

それでも、後にちゃんと天皇の座に着くことからも、地偟のでしょう。

武力に長けたと言うイメージからすると、ちょっと違和感がなきにしもあらずなのですが、実は天文、占星の術を得意としたと言います。
いわゆる陰陽道に通じていたのですね。おそらく壬申の乱の折に、この知識をも役立てたのではないでしょうか。
宮中に、陰陽寮や占星台(天文台)を設置したのも天武天皇だそうです。
他にも、誕生年が不明なため、もしかしたら天智天皇と実の兄弟ではなかったのではないか、とか、天智天皇より年上で異母兄だったのではないか、などとの説まであるそうです(^^;
こうなると、二人の間の確執やら、世継ぎ争いの件やらも、別の見方ができたりしそうですね。
なかなか謎の多い大海人皇子、兄の中大兄皇子共々興味深いです。


平成18年2月1日
翠 蓮


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