今月の「いにしえ人」 〜 沖田総司〜 |
文月・・・ 夏の初めは、まだ暑さも爽やかなイメージがあって。 これが真夏になってしまうと、ひたすらぎらぎら暑いと言う感じなのだけど。 今月は夏の始まりみたいに、明るく爽やかな人物がいいなあ。 と言うわけで、勝手なこじつけながら人選しました(^^; 沖田総司、言わずと知れた新選組の一番組隊長。 試衛館時代からの近藤勇、土方歳三の弟分。少年のような無邪気さ、心根の優しさ。 けれど一たび剣を手にすれば、その腕前は恐ろしく立つ。 天才と謳われた剣士であり、その人柄を周りの人たちから愛されながら、労咳(結核)にかかり、若くして命を終えた。 ふむ〜・・・これだけでも、しっかりドラマになりますねえ(^^; 人生を、まさに疾風のように駆け抜けて行った愛すべき天才剣士。 しかも小説やテレビ、映画等でも、沖田総司=美形と言うのはお約束のようです。 実際には、色が黒く、背が高く、肩が張っていて、顔はひらめみたいだったらしいけど・・・(^^; 確かに、剣が強いと言うことなら、肩はしっかりしていないとねえ。外で子供たちと遊ぶのも好きだったと言うから、当然日に焼けていただろうし。 まあ、顔については形容の仕方は様々なので(笑) ただ、土方歳三、原田左之助みたいに「男前だった」と言う記述は残念ながら見られないようなので、ごく普通のお顔だった、ってとこかな。 よく冗談を言う、明るい人柄だったそうです。 病気になってからでさえ、周りの者に冗談を言って笑っては「笑うと、後で咳が出て困る」と平然と言い、後に近藤勇に「あんなに死に対して悟りきった奴も珍しい」と言わせています。 その明るさが、救いでもあり、逆に哀しくもあり・・・ きっと近藤勇も、そんな沖田の様子にひそかに涙を誘われたのではないでしょうか。 若くして死神に魅入られてしまう人には、何か他の人と違う超越感みたいなものが備わってしまうのかもしれない、なんて思ってしまいました。 剣の腕前については、沖田総司はやはり天才!なのでしょう。 得意は、三段突き。これは天然理心流の特徴だったらしく、中でも沖田は電光石火の速さで繰り出した三回の突きが一回にしか見えなかったとか。 素早さ、反射神経、そしてしなやかな筋肉・・・ このずば抜けた身体能力こそが、沖田が天才剣士と言われた所以だったのでしょう。 ただし、名選手が必ずしも名監督ではない、と言う証しのごとく、他人に剣術を教えるのは不得手だったようです。 太刀筋が荒っぽく、意外にも気が短かったらしい。弟子たちは、沖田の稽古を怖れていたとか(^^; ちなみに、一番教えるのが上手だったのは、近藤勇、次が土方歳三だったそうです。 歴史上の人物については、人それぞれ自分なりの人物像があります。それは、小説なり映像なり資料なりからヒントを得て、一人ひとりが作り上げるイメージ。 もともと私は、あまり新選組を知らなかったのですが、そんな私でさえ沖田総司と言われればそれなりのイメージを浮かべることができました。 こざっぱりとした着物、髪をきゅっとまとめて、涼しげな様子。 愛嬌のある笑顔とシャイな横顔、時に孤独なまなざし、剣を手にした時は冷徹な人形みたいな無表情・・・ 確かに、目いっぱい絵になる青年像です。 でも、じゃあ実際に映像化したら誰? どんな俳優さん?と自問すると、これがいない。 ずいぶん昔にテレビで見た草刈正雄さん・・・どう見ても顔ハーフだし、色黒そうだし、清々しさがいまいちかなあ(ファンの方、ごめんなさい!) まあ、色黒と言うのは実際には合っていたわけですが。 でも、胸の病を持っているとなると、どうしても透き通るように色が白そう、って思い込んでいたんですよね。 それに、あまりこぎれいに見えなかったような記憶が・・・(^^; 去年の大河ドラマの藤原竜也くん、爽やかでかわいいけど、どうも言動が今風すぎるし、そのせいか無邪気と言うよりは子供っぽい感じ(またまたファンの方、ごめんなさいm(__)m) 天真爛漫そうでいながら、妙に悟ったところ、俗世を超越したようなふわっとしたところをも持っている、と言うイメージにこだわっていた私には、これまたどうもいまいち違うなあと思えてしまったのでした(^^; そう言えば、大河ドラマで山南敬助役だった堺雅人さんが、某映画で沖田役を演じたと聞くきますが、これは見ていないので何とも言えない。 堺さんと言う役者さんは、常に穏やかそうな表情かと思うと、時折どきっとするほど強い目の力を見せるところがとても印象的なので、もしかしたら沖田役でも面白いかも。 でも、大河ドラマ以来、どうも山南さんのイメージがすっかり定着しちゃたし(笑) 私としては、司馬遼太郎さんの「新選組血風録」と「燃えよ剣」の中に出てくる沖田総司のイメージが好きですねえ。 どこか飄々とした無邪気さ、明るさ、物事の真理をすっと掴んでしまうような天性の勘の良さ。 斬らねばならない場面では、あっさりと容赦なく斬る冷徹さを持ち、そのくせ不思議なほど血腥さを感じさせない。 女性にはどこまでも純情で奥手。かと思うと、鬼の副長と怖れられる土方をからかったりするほど、大胆な人懐っこさを持っている。 「血風録」で印象的だったのは、芹沢鴨の暗殺の話。 沖田は芹沢の良さをすんなりと認めていて、「かわいそうだなあ」と言いながらも、誰よりも暗殺の準備をいそいそとする。 芹沢の愛人お梅のことも「私はああ言う感じの女の人はきらいだけど」と言いながら、芹沢と一緒に斬らなくてはならないとなると、哀れみを覚える。 でも、結局どちらもしっかり斬っちゃうし(^^; そして、映画「御法度」にもなった加納惣三郎の話。 女性に負けないくらいの美貌と色香を持ち、隊士たちの男色の的となって騒動をかもし出した惣三郎に対し、「私は嫌いだな」ときっぱり言い、最後にはしらっと斬り捨てる。 無邪気なゆえに、斬らなくてはならないと判断した時には、迷わないのかもしれませんね。 余談ではありますが、「血風録」も「燃えよ剣」も読んでいて楽しかったのは、ちょっとした日常のほのぼのしたシーンでした。 たとえば「血風録」の中で、土方歳三が監察方の山崎蒸(すすむ)に隊士の動向を探るよう話すシーン。 山崎が部屋に行くと、土方は話しながら、ひどく熱心に火鉢の上で餅を焼いています。 「あんた、手を出しな」と言われて、山崎は餅をくれるのかと思い、手を出す。 すると土方は笑いもせず「餅は俺が食う」。隊士を探ることに手を出せと言う意味だったのですね(笑) 思わず、笑ってしまいました。 「燃えよ剣」で一番好きなシーンは、これまたささやかなエピソードみたいなところでした。 みんなには内緒で、時々俳句を作っていた土方が書き留めていた草紙を、たまたま沖田が見てしまったシーン。 そのあまりの下手さに、沖田は嬉しくなってしまう。 次々と読んでは「これもひどい」とひそかに喜びます。 それは、土方のかわいげを見た気がしたから。これで俳句まで上手かったら、まったくかわいくない、と沖田は思うのです。 「血風録」でも「燃えよ剣」でも、土方は唯一沖田にだけは、格好がつけられない。なんのてらいもなく、すっとふところに飛び込まれてしまうので、思わず素の自分が出てしまうのでしょう。 そして、そんなところこそが、この沖田と言う青年の不思議な魅力のひとつだと思えるのです。 何者のも囚われず、好きな剣術に打ち込んで、風のように生きたかったのであろう一人の青年。 その剣は、強くはあっても、誰かの血を流すためではなかったのでしょう。 兄と慕う人について行くことで、否応なしに時代の奔流に呑み込まれ、幾人もの人を己が剣にかけ、それでもせいいっぱい普通の顔で泳ぎきっているつもりだった青年は、ついには自らも抗うことのできない病魔と言う運命の前に斃れます。 沖田総司、彼が本当に望んでいたのは何だったのか、どう生きたかったのか。 答えは、想像するより仕方ありません。 初夏の爽やかな風は、強烈な陽射しに焙られ、いつしか狂気を孕んだような熱風に変わる・・・ 静かなる天に召された魂に、清らかな救いが訪れてくれたことを祈るばかりです。 平成17年7月1日 |
翠蓮 |
![]() |