今月の「いにしえ人」
                                                       
― 紫の上 ―


今までのメッセージに変え、今月から月初めの更新時に一人の「いにしえ人」を取り上げて、私の勝手な所見を書かせて頂こうと思っております。
まあ要するに、詩の各コーナーにある「私的人物所見」のクローズアップ編みたいなものでしょうか(^^;
あくまでも「私的」ですので、その点ご了承下さいm(__)m

さて、第1回目と言うことで、誰を取り上げようかと迷ったのですが・・・
春をイメージさせる人にしよう、と思い、これまた迷いながら「源氏物語」の世界から「紫の上」を選ばせて頂きました。
紫の上・・・源氏の君が一番愛したのではないか、と思われる女性。
実は私は、最初の頃、紫の上にはあまり興味がなかった、と言うのが本音です(^^;
美しく聡明、しっかりしていて、物分りがよく・・・なんとなくとても優等生的な女性と言うイメージが、いまいち物足りなく思えたのでした。
ようやくこの頃、少し違った見方ができるようになりました。
きっかけは・・・実に些細なことなのですが(^^;
「源氏物語占い」と言うのをみつけまして、それをやってみたところ「紫の上」に当たってしまったので(笑)
あらためて、紫の上ってどんな女性?と言う興味がわいたと言うわけです。うむむ、単純の極みだなあ>σ(^_^;

「紫の上」、幼い時に源氏の君に見初められ、そのまま引き取られて大切に育てられ、やがて源氏の君の妻となる。
一見、幸せそうに見えるけれど、これはまったくの「かごの鳥」状態。何ひとつ、自ら選んだり、決めたりする余地がない境遇ですね。思えば、幼くして母を亡くし、父にも正式に認められた子ではなく、尼である祖母に育てられていた紫の上。もし源氏の君に引き取られなかったとしても、あまり希望の持てる将来ではなかったのかもしれないけれど。

そして、源氏の君が見初めたのも、実は密かに思い焦がれていた藤壺の宮に面差しが似ていたから。そのことを、紫の上が知っていたとは思えないけれど、それだけに哀しい気もします。
そして、決定的な不幸は、紫の上に子供ができなかったこと。そのことが、紫の上が源氏の君の正妻となれなかった理由ではないにしろ、やはり紫の上にとってはつらいことだったでしょう。
紫の上は、なかなかヤキモチ焼きだったとも言います。でも、それは六条御息所のような、我が身を滅ぼしてしまうほどの壮絶な嫉妬とは違い、もっとやんわりしたものだったらしいけれど。

紫の上の一番の嫉妬の対象は、明石の君。これはさもありなんと思われます。なにしろ、源氏の君が自ら都を離れ、一緒に連れていってもらえず、ただ一人寂しさに耐えて留守を守っていたその頃、源氏の君はちゃっかり明石の君になびいていたのですから。しかも明石の君に子供までできていた。これは相当のショックだったろうと察せられます。源氏の君は、明石の君の産んだ子を、紫の上の養女にして育てさせます。心優しい紫の上のこと、子供を恨むことなど思いもせず、かわいがったことでしょうけれど。

その後、さらなる試練が・・・ 今度は女三の宮が、源氏の君の正妻として迎えられたのです。身分から言っても、太刀打ちできないほどの相手。紫の上が出家を望んだことから考えても、どれほどのつらさを味わったのか想像できます。でも、最後の望みだった出家さえ許されなかった。
思えば、紫の上の人生は、すべて源氏の君に決められ、源氏の君の思うままに従わざるを得なかった。これは、はたして幸せと言えるのだろうか。

おそらく、紫の上と言う女性は、とても素直な気持ちの持ち主だったのでしょう。時折拗ねたり、嫉妬したりはしても、なんとか自分の気持ちに折り合いをつけることができる女性だったからこそ、明るく美しく、と言うイメージを損なわずにいられたのでしょう。
それでも、昇華しきれない哀しみや苦しみの澱が少しずつ心の底にたまっていったのだとしたら・・・
彼女の人生は、自分の中に芽生えそうになる(いえ、芽生えてしまった?)不幸との戦いだったのかもしれない。
そのことに源氏の君は気づいてあげていたのどうか。

紫の上、幸せと不幸は表裏一体なのかもしれないと、しみじみ思わせる女性です。


平成16年4月1日
                                                        
翠蓮