萌  芽

                  ― 諸葛亮に捧ぐ ―


人は
生まれ育った国に真心を尽くし
信念を守り抜いていくものだと
そう思って生きてきた


この国のため戦い
この国で名を挙げ
この国の土に帰ること


それが我が道なのだと


だが天は
予想だにしなかった霹靂(へきれき)で
見事にわたしの足元を掬ったのだ


わたしの力を認め
わたしの思いに頷き
わたしの未来への道を
すっと指し示して下されたのが


こともあろうに
昨日まで我こそが倒さんと
遮二無二戦って来たその御方とは


敵味方などは
ただ時の偶然のなせるわざ


乱世を憂い
太平の世を願う気持ちが
絶ちがたい絆を生むのだと


そんなやすらかさが
静かに湧き出で
乾く胸を潤して行く


ふと足を止めたその先に
鮮やかな緑の芽吹きを
見つけたような歓びを


貴方は
わたしに気づかせてくれた
                                         
清雅にして
強靭な煌きを持つ瞳


微風のごとき笑みを
口元に漂わせた貴方に
我が名を呼ばれた時


迷わず膝を折り
礼を返していた


この御方の側にて支え
共にこころ砕いて行くことが
我が運命なのだと


それは
なんと思いがけない瞬間であったろう


この肩に背負わされたものは
重く熱く
そして果てしなく輝かしい


苦難など何ほどのこともない


信じられ頼られることの
微熱のような陶酔に
鼓動は高鳴り
夢が満ち潮のように寄せてくる


わたしは今
わたしが生まれた国を
わたしを育ててくれた国を
捨てよう


孝に背くことには
こころの底から詫びるだろう


忠義を翻したと非難するなら
甘んじて受けもしよう


わたしは貴方のために
これからの生涯を捧げたい


貴方の守る国を
我が新しき国として
持てる力すべてを注ぎたい


いつか
ただひとつの柱を尊ぶ
乱れのない平和な世が
訪れることを願って


その道を築くために
ここに在るのだと信じて


わたしは空をふり仰ぐ


天の果てはどこまでも高く
青き色もかすかな雲も
こころ吸い取られるほど美しい
                                                    
わたしは
この空を覚えておこう


今わたしをみつめている
そしてこれから先
わたしが仰ぎ続けるであろう
穏やかに澄んだまなざしと共に


どん