彼岸花



それは
一群れの炎


音もなく
揺らめきもせず
ただ しんと


野辺に集まり
遠すぎる空に向かって
燃え上がろうとしている


赤い 赤い


手を触れてはなりません
その花に


記憶の底でこだまする声


いいえ
みつめるだけだった
あの頃も今も


だって


それは炎だったから


赤く 赤く
人の手を拒みながら
一心に咲き続ける


深い秋空に
くっきりと映える
異端の色


まだ見ぬ向こう岸の風景から
転じたようで


立ち止まり


つかの間
幻の炎に魅入られる


なんて静かな


野辺を吹き抜ける
しのびやかな風


煽られて


ちろちろと
小さな火の粉が震え出す


赤い 赤い・・・

(絵写真 HAL‐KODAさん)