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毬さんへ感謝をこめて


花  霞



貴方は時々
わたしの手の届かないところへ
さ迷い出てしまわれる


人の目には触れぬもの
人の手を擦り抜けるもの


天に上ること叶わずに
現世に縛られた魂が


うめきながら
渦巻きながら
貴方を呼んでいると
言うのでしょうか


それが
哀しい妄執なのか
邪悪な怨念なのか


わたしには
到底わかりかねます故


闇のように
霧のように
さだかでない空間が


貴方を包んでしまうのを
なすすべなく
みつめているしかないのでございます


貴方はいつも
さしたることはない、と
うっすら微笑みながら


わたしに
背を向けておしまいになる


どんな恐ろしいことが
待ちうけているやも知れぬ
その場所へと


軽やかに
赴いて行ってしまわれる


わたしには
お引止めすることも
ついて行くことも
できないのですね


それならせめて
この行き場のない想いを


絶えることなく
心の琴線を弾き続ける
強く深い貴方への想いを


花の形の式神に変えて
その衣の懐に
そっとしのばせましょう


もしも貴方が
根の国に降り立ち


ひとすじの光さえなく
闇に取り巻かれたなら


この想いは
貴方の胸から飛び出して


淡くやさしい
薄紅の霞となり
愛しい貴方を抱きましょう


たとえ
その身はひとりでも


こころはいつも
比翼の鳥


わたしが共にあることを
思い出して下さるように


幾重にも開く
花びらが


かすかな風にも
ふわと舞い
暗き路にも
点々と散って


貴方が戻るための
しるべとなりましょう


何があっても必ず
わたしのもとへと
迷わず帰って来て下さるように


もしもまことに
そのような力が
わたしにあるのなら


貴方の無事を祈るだけの
暗き夜に
怯えずにすむものを


待つ身はつらい
なんとつらいものでしょう


ふと目を上げれば
月の光の通り道


白く浮きたる花霞
さやとそよいで
枝が頷く


ああ
よかった


きっともうすぐ
きっと貴方が


戻り橋に影を落として
わたしのもとへと
帰っていらっしゃる


闇の念など
露ほども残さぬ
涼やかな佇まいで
歩いていらっしゃる


さあ
紅をひいて
髪をととのえ


貴方のお好きな
お酒など用意しましょう


いつもと変わらぬ
笑顔を添えて


いつものように
貴方をお迎えしましょう


月を眺め
庭を眺め
たわいない話に興ずる
さりげないひととき


どうか
貴方の肩に
静かなやすらぎが
降り注ぎますように





※ この詩に毬さんが素敵なイラストをつけて下さいました。
イラストはこちらから