暁  光

                            ― 中大兄皇子に捧ぐ ―


あの日わたしは
目の前に転がった
あなたの沓(くつ)を見ていた


それを拾い
あなたの前に捧げ持った時
わたしの心をも差し出したのだ


深く
恭順の礼をとりながら


あなたと共に
歩むことになるであろう
険しき路の果てに


新しき天地が開けると


いや、
きっと開いてみせると
そのまなざしに誓ったのだ


あなたは
鋭き暁の光


まどろみのやすらぎをも
鮮やかに切りさく


目覚めは時として
苦痛を生むけれど


まぶたを射すまぶしさと
夜明けの風の冷たさに
怯えることなく


あなたは
昂然と瞳を上げ
自らの強さを示すだろう


たとえ
悪しき夢のような
黒雲に覆われる日がきても


わずかな隙間から洩れる光が
いつしか
不安を吹き散らすと信じて


わたしは常に
あなたのかたわらに控えよう


あなたのための道しるべを
この手で立てて行こう


そう あの日


あなたが
わたしの前に立ち
問い掛けるように
その視線を向けた時


あなたも
わたしも
行くべき路を悟ったのだから


決して迷うまい