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よもぎさんへ感謝をこめて。


救世幻想


― GUZE GENSOU ―


遠く近く
蓮の花咲く水辺に佇む
清浄なる気配


しゃらん しゃらんと
涼しげなる音をたてるは
仏たちが手にした錫杖か


衣を揺らす風の流れは
あえかなる薫りを抱き


藍一面の天は
星さえも浮かばぬほど深く


ただ菩薩なる者から射す
後光が淡く輝くのみ


ここはいずこの世界?


夢見るでもなく
現(うつつ)から離れるでもなく


時折
わたしが迷い込むは


人として在る前の
記憶の帳(とばり)の中なのか


八百万(やおよろず)の神はいませども
この世に厄災は失せず


人は苦しみに耐えかねて
救いを求める


仏を奉り
教え広まれば
平穏が訪れると言うならば


わたしこそ そのために
遣わされし者


この身は
時に風のごとく天に舞い


雲を引き連れ
乾いた大地に雨を呼び起こす


この手は
時に雷(いかずち)のごとく天を突き


四天王を起たせては
群がる敵を討つ


不可思議なる力を示さば
誰もが怖れ また尊ぶ


人ならぬ者
人を越えし者


ざわめきに遠巻きにされるも
すでに慣れしことなれど


ただひとり
夢殿にて瞑想する時


わたしは
人なる衣から逃れ
頼りなくたゆたう魂となる


それは
この身が透き通るほどの
心地よい軽やかさ


仏の慈悲に満ちた手は
常に暖かく
わたしを赤子のごとくあやし


薄闇の中に仄見える
記憶の岸へと
わたしを誘い出す


時空(とき)をも超えるさ迷い


だが
ひとたび幻から醒め
人の身に戻れば


なんと果てしないほどの孤独に
わたしは包まれているのだろう


この道は
どこまで続くのか


現世(うつしよ)に生きたまま
わたしを癒す手を
求めるのは無駄なのか


脳裏に浮かぶ
ただひとつの面影の前に


いつかすべてを
さらけ出してしまう日を
予感しつつも


まだ今は
成すことのあまりに多く
揺れ惑うひまはなし


まぶたを開け
頬に微笑を刻み


何事にも動じぬよう
まっすぐまなざしをこらせば


静かに開く夢殿の
扉の向こうから


暁の光明は
高貴なる瑞鳥となって
我が手に舞い降りる


我が背後には
すっと立ち尽くす
仏たちのやわらかき加護


この確かなる天啓


わたしは
末世を救うべく
遠き彼方より生まれ出でたる


菩薩の化身なり