冬迷子
ぽかぽかと
陽気もすっかり温んで
ふわふわと
こころに
羽が生えてしまいそうな
春間近な日々の中にも
時々ね
どこからか紛れ込んでしまう
ちっちゃな冬迷子たちがいるんだよ
首筋に吹き抜ける北風や
指先を凍えさす雨
忘れそうになっていた
寒さの記憶を引き連れて
なぜだかね
ふらりと
舞い戻って来ちゃうんだよ
しまいかけていた重いコートを
また引っ張り出したり
暖かさに油断していて
風邪をひきそうになったりと
みんな
思わず慌ててしまって
困った顔を見せるから
早く春になればいいのに、
なんてぼやくから
冬迷子たちは
ちょっぴり寂しそう
中途半端な空の中
くすん、とうつむいて
ヒュルルッと風の音
パタパタ雨の音
あれは冬迷子たちが
拗ねているのかな
でもね
大丈夫
本当は
みんな知っているんだよ
君たちがいるから
なかなかいっぺんには
巡ってこない春が
なおさら
待ち遠しく思えることを
過ぎ去ろうとしている
季節のはかなさが
不思議に
なつかしかったりするんだよ
もうすぐ
薄紅色の春の精が
その淡く暖かなベールで
大地を被いつくしてしまうけれど
君たちがこれ以上迷わないよう
やさしく魔法をかけて
眠りにつかせてしまうけれど
大丈夫 大丈夫
いくつもの季節の扉を
知らないうちにくぐり抜けて
また目覚める日が来るからね
それまで
もう少しだけ
ここで遊んでいていいよ
もうしばらくだけ
寒くても我慢するよ
肩をすくめながら
そっと見ているから
空の高いところまで
さあ走ってごらん
春の境目で
行ったり来たり
ぽつんと戸惑い顔の
冬迷子たち