『陰陽師
夢枕 獏

まっさらな照明器具の光のもとに、すべてさらけ出されてしまう現代の夜と違い、あちらこちらに得体の知れない闇が広がっていたであろう、平安の都。人々の想像力はどんなであったのでしょう?
百鬼夜行、鬼・・・ おどろおどろしい怪異現象を飄然たる面持ちのまま、ときほぐして行く安倍晴明。豊かな雅楽の才そのままに、熱い情を持つ源博雅。ふたりが 折々の季節に、清明の家の庭を愛でながら酒を酌み交わすシーンが、いつもながらなんとも風流で・・・
「行こう」「行こう」と声かけあって、さまざまな心の鬼を成仏させに出かける晴明と博雅。さて、ふたりの心には鬼は住まないのかしらん、などとよけいなことを考えたり・・・してはいけませんね(笑)
『陰陽師』はいわゆる短編集と言った作りなのですが、夢枕さんご自身は一番好きな話は「鬼小町」だと、ある本に書かれていました。
絶世の美人と言われた歌人、小野小町。そしてその小町に百夜通いを約束しながら九十九夜目に死んでしまった深草少将。死してなお、夢をあきらめきれないふたりの、哀しい情念をみつめる晴明のまなざしにやさしさが感じられて、私も好きな話です。
それぞれに、深い想いを抱く人々が登場し、その闇を祓う晴明と博雅がいて・・・いつしか万華鏡のような不思議な世界に迷い込んでしまいます。

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