『額田女王』
井上 靖

この本を最初に読んだのは いつだったか・・・ もう ずいぶん前から、私の愛読書となっています。
額田女王の名前は、その歌の鮮やかさから 、とても印象に残っていたのですが、中大兄皇子(後の天智天皇)に興味を持ち始めたのは、まさにこの本がきっかけ。わりと悪役に描かれてしまいそうな中大兄皇子ですが、その峻烈な生き方になぜか魅せられます。弟、大海人皇子との子までなした額田王を、我がものにしようと追い詰める中大兄皇子。絶対的な自信とゆとりと、それでいながら不思議な孤独感をも漂わせ、逃れられぬ想いにいつしか取りこまれて行く額田王の気持ちに共感を覚えてしまいました。
他にも若くして薄幸の人生を閉じる有間皇子。聡明すぎる皇子であったがゆえの悲劇。その残された和歌の共に、心に残る人物です。
ヒロインの額田王は、神の声を聞く巫女としての神聖さを湛えたまま、思いがけない恋の渦に巻き込まれて行きます。運命に流されながらも、凛としてたおやかな彼女の生き方はなんとも魅力的。
でも久々に読み返したら、自らの意志で独りで生きることを貫き通した額田女王の晩年がやけに切なく感じられました。
有名な「熟田津に・・・」の和歌、そして「茜さす・・・」の和歌の背景のドラマも堪能できます。


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