どどぅっ
どどぅっ、と
海が吠えている


夜の中に
白い牙をむきながら


地を揺り起こすような声で
海が吠えている


どっぷりと暗い水面は
もはや空との境界すらも
おぼつかない


風になぶられ
猛々しい闇に向かう


どどぅっ
どどぅっ、と


海は吠えている
まるで怒りのように


不安や迷い
こころに巣食う弱さを
鞭打つように
海は吠えつづける


まっすぐ立つがいい


腹の底に響く咆哮を
しっかりと
受け止めるがいい


おまえは
こんなにもちっぽけなのだ


些末な嘆きなど
海の餌食にくれてやる


これ以上
ちっぽけにならないために


顔を上げ
足を踏ん張り


じっとりとした潮の香を
胸深く吸い込みながら


わたしは立ちつくす
海に向かって


己の嵐に負けないように