雨の匂い



あなたの肩越しに
見上げた空から


まだ目には見えない
雨の匂いが
落ちてくる


雨は好きじゃない


そうつぶやけば
きっとあなたは
小さく笑って


木々の緑も
花のつぼみも
天の恵みを
待っているんだよ、と


微熱の頬に触れる
ひんやりした空気
まぶしさのない
やわらかな曇り空


鳥たちの鳴き声は
何のくったくもない
音楽のように
軽やかに飛びまわる


不思議ね


あなたといると
自然のすべてが
素敵な魔法に思えてくる


傘の代わりに
その腕の中で
雨を避けたい
そんな気がして


ちょっと照れ隠し


あわててもう一度
淡いグレーの空を
見上げれば


ぽつり、と
落ち始める銀の雫


ふいに
世界が動く


目の前の空が
ふさがれて


すっぽりと
わたしを包む
雨の匂いが
あなた自身だと気づく


眩暈のようなときめき


やさしい
雨の匂い


時なんて


止まってしまえばいい