紫陽花



梅雨晴れの陽も傾き
夕暮れ間近い頃


静寂の空に満ちる
淡い光は
銀の紗を透かしたよう


山の端で呼び合う
のどかな鳥の声


どこからか流れてくる
すいかずらの香り


どちらも
その在りかを知らさぬまま


わたしの足を
しばし止めさせる


視線の先には
ひっそりと


虹の欠片を映しとったような
紫陽花の色彩


雨の手触りに慣れた
紫陽花たちも


今日は一日
陽射しにからりと乾かされ
雨粒の模様を忘れている


少しだけ
軽くなった?
でもやはり
雨が恋しい?


小首を傾げたまま
沈黙の花手毬


紫陽花の
もうひとつの花言葉を
あなたが教えてくれたから


やわらかな花蔭に出会うたび
心が小さく波立つ


辛抱強い愛情


長雨に打たれ続けても
薄墨の雲に閉じ込められても


ひたむきに
色褪せることなく
咲き続ける姿には


きっと
その花言葉の方が似合う


短い梅雨の晴れ間は
雨に耐える紫陽花たちへの
ささやかなご褒美


夕闇の中に
うっすら浮かぶ紫陽花に


今頃
あなたもまなざしを
止めているかしら


振り仰ぐ残照は
明日の空模様を
告げはしないけれど


もしも
あえかなる雨が


霞むような空から
はらはらと降ったなら


幾色もの紫陽花が
群れ咲くあの場所を
訪ねてみようか


傘を打つ
雨の音だけを聞きながら
あの小路を辿りたい


ぽつんぽつんと
心に滲んで行く面影を


雨の雫ごと
手のひらに受け止めながら


揺ぎなく優しい
紫陽花に包まれながら



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