哀  歌

                         ― 額田王に捧ぐ ―


あなたの詠う歌は
いつもまぶしい彩りに
満ちている


せせらぎに跳ねる
光の乱舞のように
生き生きと


雨上がりの木々から
降りこぼれる雫のように
みずみずしく


人々のこころに
豊かな潤いを与えてくれる


それはなんと
うらやましい輝きなのだろう


わたしには
おそらく詠えない
命の歓びから生まれ出た
晴れやかな歌は


沈む想いだけが
わたしに歌を詠わせるから


行き場のないつぶやきが
自らの胸のうちに木霊して


こらえきれずに
わたしは
頼りない言の葉を綴り出す


ひんやりと翳る水底の
青ざめた藻のように


ゆらめくばかりの哀歌が
わたしには似つかわしいのか


それでも
叶わぬ夢はこの掌で
かすかな瞬きを繰りかえす


暗雲をふりはらい
いつか澄み切った空のもと


あなたが
やわらかい微笑みを浮かべて
読んでくれる
そんな歌を届けてみたいと


こころに射しこむ
木漏れ日のような淡い願いが
わたしの頬を暖める


あなたのたおやかな指先が
そっと開くその歌が


ささやかでもいい
わたしの歓びを
詠ったものでありますように


天の祝福にも似た
きわやかなまなざしを持つ人よ


あなたには
哀しい歌は似合わないから