Nostalgia



のどかな風景の中に
伸びる道があった


一面の緑
まばらな家々
田んぼの向こうにうずくまる森


大きな曲がり角にさしかかると
右手には
枝を張った椿の木々


冬になれば
たくさんの紅色の花をつけ
花は散ってなお地面を彩る


道の左手には
小さな野原


春のたんぽぽ
つくしの背くらべ
シロツメクサで編む花冠


秋は風に揺れる
ヒメジョオンやねこじゃらし


毎日飽きることなく
草を摘んでははしゃいでいた


そして
ぐるっと角を曲がりきれば


その先に見えてくる
少し古ぼけた青い屋根の家


ランドセルを弾ませて
庭を横目に
玄関に駆け込む


ただいま〜・・・


そんな光景を
何度想像したことだろう


昔住んでいた家
知り尽くした町
歩き慣れた道


鮮やかでありながら
どこか頼りない記憶


手繰り寄せる子供の頃の感覚は
明るい一点の周りが
いつもぼやけている


もう一度訪れるには
決して遠すぎはしないのに


長い長い間


思い出の中だけで
時折見る夢の中だけで
舞い戻っていた場所


今佇んでいるのは
本当に


あの頃の
あの場所なのだろうか


あっけないほどに
回想と現実は
ずれを生じてみせる


巻き戻すたびに
切なさを増したはずの風景が
記憶の片隅で焦れている


違うね・・・


ふっと
あきらめにも似た
ため息をつく


きっと


心のどこかで
すでに
わかっていたのかもしれない


時の流れは
幾重にも幾重にも
記憶に薄絹のベールをかけ


いつのまにか
その風景を


まるで
わたしの中にしか存在しない
隠れ里のように


より懐かしく
かけがえないものに変えていた


人は無意識のうちに
思い出を


こうであってほしいと言う
一番美しい姿のまま
再構成しているのだろう


それでも


それだからこそ
思い出は


手に取るたびに
小さく輝きを放つ
貴石となり得るのだと


今更のように
頷けたことに
ささやかな感謝を覚えながら


記憶の中とは違う
けれど間違いなく
あの頃歩いたはずの道を


もう一度
静かに踏みしめる


空が
無邪気に


青くて
高い



             ※ Nostalgia ・・・・・・ 郷愁 過去への憧れ



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