捻じ曲げる禁忌
9 光差す進むべき道
caution!! キラ、ラクス(ところによってはアスラン)がお好きな方は、お読みにならないことをお薦めいたします。 もし不快に思われましても、苦情等はお受けできませんので、ご了承ください。 申し訳ありません…。 なお、もし不快に思われましても、苦情は受けかねます…。(すみません) |
探していた姿を、オーブ軍施設の出口近くで見つける。 「ミリアリアさん!」 呼び止められて、彼女は振り向いた。呼びかけた人物を目にとめると、ちょっとびっくりしたような表情になる。 「メイリン?」 「はい。こんにちは。お久しぶりです」 小走りに駆け寄ると、メイリンはミリアリアに笑いかけた。 相変わらずの、優しい光を湛えたエメラルドグリーンの瞳。その温かさに、メイリンはなぜだか嬉しくなる。 「びっくりした。さっき皆に挨拶をしたときには、見かけなかったけど…?」 「はい。さっきプラントから着いたばかりだったので」 「プラントから?」 「フェブラリウス市に行っていたんです」 「フェブラリウス市」と聞いて、ミリアリアの表情が瞬時に曇る。 「…まさか、第5コロニー?」 「はい、そうです」 その言葉の意味するところを正確に受け止めてから、メイリンはゆっくりと応えた。ミリアリアに隠す気は、毛頭ない。 「フェブラリウス市の第5コロニーに、アスランさんと訪問してきたんです。コーディネーターのみの社会を築こうとするのに対して、ラクス様の『ナチュラルとコーディネーターの共生のため、ナチュラルも受け入れるように』との意向を伝えるために」 「…それで、フェブラリウス市第5コロニーは何て応えたの?」 真剣な顔つきで、ミリアリアが訊ねる。頭上からの照明に、顔に影が差し、その表情は一層暗く見えた。きっと、一番知りたかったところなのだ、それは。 「断られちゃいました」 「え?」 「てへ」という風に笑うメイリンに、ミリアリアは目を点にする。 「タッド・エルスマン市長に個人的にお会いしたんです。そうしたら、アスランさんは正当な外交官じゃないだろう、って。話があるなら、きちんとした外交官をよこしなさい、って」 「…それで、フェブラリウス市は大丈夫なの?」 さすがミリアリア。余分な説明を一切必要としなかった。メイリンの短い説明で、大方のことを察したのだろう。一足とびで結論へと急ぐ。 「それは分かりません。今頃、アスランさんがラクス様に報告してると思いますけど」 「……」 険しい表情で、ミリアリアは黙った。フェブラリウス市の状況が、危機的なものであると想像がついたのであろう。先刻の、報道陣が噂していた危惧を思い出す。それは、ミリアリアも危惧していたことだ。その嫌な予感は、ここに現実になろうとしている。 ラクスはきっと、フェブラリウス市第5コロニーの主張を許さない。平和の名の下に。ナチュラルとコーディネーターの共生という、崇高な理想のために。 「…ミリアリアさん?」 「…あっ、ああ。ごめんなさい。…何?」 深刻に考え込んだミリアリアを、メイリンが心配そうに覗きこむ。 「私、余計なこと言っちゃったでしょうか?」 「ううん、そうじゃないの。教えてくれてありがとう。ずっと、知りたかったから。…これは、そうじゃなくて…」 メイリンを安心させるように、微笑む。…が、その笑みはすぐに消え失せた。 ミリアリアが消沈している原因は、メイリンが心配していることとは違う。メイリンが悪いわけではない。そう、言葉でも表情でも応えたかったのだが、意識しても表情は沈んでいってしまった。 「…これは、違うの。プラント内でも戦争が起こるのかな、って」 「プラント内でも…?」 プラント内で戦争など、聞いたこともないし、想像したこともない。けれど、こうしてバラバラだった情報の欠片を拾い集めると、否が応にも現実味を帯びてきていた。この状況下に立って、それが馬鹿げた冗談だと、笑い飛ばすことは既にできなくなっている。 「不安にさせちゃったら、ごめんなさい。でも、セレベスで戦争が始まるのは事実だから」 「…セレベスで…!?」 メイリンの顔が青くなった。予想外のことだったので、その表情を見たミリアリアの方こそ驚く。セレベスに、コーディネーターは殆どいない。メイリンの知り合いがいる確率は、非常に低かった。それなのに、なぜ。 「セレベスに、知り合いがいるの?」 「セレベスには、…今…」 みるみるうちに、メイリンの唇が青紫色に染まっていく。小刻みに肩を震わせながら、恐々と口を開いた。 「…サイさんって、今どこにいるか知っていますか…?」 「サイ?」 思いもよらない名前がメイリンの口から飛び出して、ミリアリアはぽかんとした。 「ううん、オーブにいると思ってたんだけど、いなかったわね。どこかに行く、とは聞いてないし」 特に気にもかけなかった。サイのことだ。自立しすぎているほど自立している彼に、心配は無用なものだし、オーブに今いないのも、何か用事があって留守にしているのだろう、と軽くしか考えていない。疑いさえ抱いていなかった。 「サイがどうかしたの?」 ぶるぶると震えているメイリンの背中を、なだめるように撫で、ミリアリアは穏やかに訊いた。メイリンの様子は、尋常ではない。 「…サイさんには、いろいろと相談のメールをしていて…。今回のフェブラリウス市第5コロニーのことも、メールをしていて…。…返事をもらったけど、いつもと違って内容がはっきりしてなくて、…おかしいな、と思って…、メールを出した場所を調べたんです…。…そうしたら…」 「セレベス…」 「…はい…」 たどたどしいメイリンの言葉を繋げると、現れた実態がじわじわと実感として重さを増してゆく。 これから戦争の始まるセレベスに、サイがいる。 なぜと思う前に、戦火に巻き込まれサイが犠牲となるという怖い想像が、頭をもたげた。自分の意思など遠く及ばないものに翻弄され、アークエンジェルに乗らざるをえなくなったことを思い出す。そして、物語の登場人物を自分に思い描いて、空に散っていった彼のことを。 大地に立っている人々は、どうしようもなくただの人間で、ただの人間以上の存在ではなくて、物語の登場人物のように、約束された命なんてなかった。自分の人生で自分は主人公だけれど、世界の物語の主人公でなんてあるはずもなく、いくらもがいても、約束された命を持つ主要登場人物にもなれはしなかったのだ。 それを、死をもって知った彼。 それまで、ミリアリアもどこか安心していた。彼は死なないのだ、と。意味も理由もなく、無意識下でそう思っていた。 けれど、現実は裏切る。夢は夢なのだ、と。物語の登場人物でもない者が、身の程知らずな約束された命を求めるな、と。 あっさりと、人は死ぬのだ。 「…どうしよう。サイさんが…。…私…」 メイリンが、うわごとのように、支離滅裂に言葉を漏らす。目は恐怖に見開かれ、浮かべた涙に瞳は潤んでいた。 ミリアリアは、ゆっくりとメイリンを抱き寄せる。 「大丈夫。まだ、セレベスは安全だから」 「……」 「こく」と、ミリアリアの腕の中で、力なくメイリンが頷く。 「私ね、セレベスに行こうと思っていたの。だから…」 「本当ですか!?」 ミリアリアが最後まで言い終わる前に、メイリンが勢い良く顔を上げた。恐怖の表情は、一瞬のうちにどこかへ吹き飛んでいる。 ミリアリアは、くす、と苦笑した。 「サイに会おうと思う。必ず、伝えるから。セレベスは戦場になるって。その後で、どうするか決めるのはサイだけど」 「私も、セレベスに行きます!」 「…え?」 「あ!でも、どうしよう。セレベスにコーディネーターは入国できなかったんだっけ」 「…ううん。旅行とかの短期の滞在権は、コーディネーターにもあるから大丈夫。入国審査は厳しいって聞いたことがあるけど」 「じゃあ、行けるんですね!…それなら、急いでセレベスへの便を確認して、入国審査に必要なものを用意して…」 ぶつぶつと呟くメイリンに、ミリアリアはぽつりと提案する。 「一緒に行く?」 「いいんですか!?」 「うん。取材アシスタントという名目なら、入国審査もそんなに厳しくないと思うの。それでもいいのなら…」 「もちろんです!」 先刻までの消沈した表情はどこへやら。メイリンは、目をキラキラさせて、ミリアリアを見つめてくる。がっちりと掴んだミリアリアの腕に、力が込められていた。思わず、笑みがこぼれてしまう。 圧倒されるほどの前向き思考。今までくよくよと考えていたのが、馬鹿らしく思えてくる。 そう。前に進めばいいじゃない。 やることは決めてある。セレベスに行くこと。戦場カメラマンとして、争いの始まりから終わりまで、事実を追うこと。その事実を世界中の人々に見てもらうこと。 その事実を知った人々に何かが残れば、私の存在意義がある。 私達は無力じゃない。持っている力は僅かだけど、ゼロじゃない。 それなら、その僅かな力を、最大限に発揮すること。 それが、私達がこの世界の登場人物に成りえたる手段だ。 「行きましょう、メイリン。あまり時間はないわ。準備をしないと」 「はい!」 ミリアリアが差し出した手を、メイリンはしっかりと握り返した。 to be continued |
ドリームマッチ。 サイとメイリン。略してサイメイ。(だからなんだと…) 妄想も、ここまでくれば立派ですか? いや、そうではない。(反語) ミリアリアとメイリンは、普通に仲良しだと思います。 メイリンは、素直にミリアリアを尊敬するだろうし、 そんなメイリンをミリアリアはかわいいと思うだろうな、と。 |
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