捻じ曲げる禁忌
12 そして、幕は切って落とされた
caution!! キラ、ラクス(ところによってはアスラン)がお好きな方は、お読みにならないことをお薦めいたします。 もし不快に思われましても、苦情等はお受けできませんので、ご了承ください。 申し訳ありません…。 なお、もし不快に思われましても、苦情は受けかねます…。(すみません) |
「見せたいものがあるんだ」 セレベスの状況を、あらかた説明し終わった後、ラスティが言った。 はじめは、いかにも研究施設らしい小奇麗な白い廊下だったのだが、奥へと進むうちに雰囲気は変化していく。ガラスを通して、各研究室で働く白衣の人々を見かけていたのが、段々と扉が少なくなり、仕舞いには、コンクリートが打ちっぱなしの、灰色で殺風景な廊下になった。採光も絞られ、随分と奥に来た今は、陽の光なぞ見る影もない。 これが、研究施設に隠された、レジスタンスの基地なのだろう。ラスティに連れられ、ロックのかかった重厚な扉を数度抜けていた。もう、十分セキュリティの高いエリアに入っているはずだ。 「しかし、随分と豪勢な建物じゃないの」 「まあ、国がお金を出してるからね」 「…それ、横領じゃないわけ?」 「ちゃんとした防衛費だよ。むしろ、贅沢な机にふんぞり返って、何もせずに血税無駄にしてる馬鹿から横領っていうか、搾取はしてるけど」 皮肉のこもったディアッカの問いに、あははー、とラスティは楽しそうな笑い声を上げる。 「うへー。怖い怖い」 「そんなことないよ。ちゃんと仕事をしている人には、目をつぶってるから。そのくらいは柔軟性がないとね」 賄賂も、時と場合によって必要だ、と言っていた。 潔癖な政治家など、この世にいない。いや、潔癖でいてさらに実力のある政治家がいない、というのが正しいか。いて欲しいという願いとは裏腹に、この世界はものの見事に期待を裏切ってくれる。 そもそも、自分がかわいくない人間などいないと思うのだ。自らの権限で欲望を満たせすことができるのに、自らをさし置いて他人に施すなど、頭がおかしいのではないか、と疑ってしまう。 「あ〜あ、せちがらい世の中だよねェ」 現実っていうのは、そんな夢と理想に彩られた天国じゃない。夢も希望もない、とは言わないが、現実から目を背けたら、ただの馬鹿だ。 「でも、セレベスは決して裕福じゃない。農産物は自給自足には程遠いし、他に産業を、と思って力を入れている電子工学だって、やっと軌道に乗ってきた、って段階でしかないからね。しかも、今は経済制裁受けてるし」 「経済制裁〜!?」 ディアッカは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。見ると、サイはさして驚く風でもなく、すました表情をしている。サイは、経済制裁の事実を知っていたか、もしくは予測していたのだ。 「…オイオイ、なんだよ、それ。やり過ぎじゃないの?」 「周辺の国は、やり過ぎだと思ってくれてるみたいだけどね。そうは言っても、やぶへびになりかねないから、みんな黙ってる。プラントに気づかれないように、変わらず各国がセレベスに輸出を続けるだけだ。それだけ、ラクス・クラインは脅威なんだよ」 「経済制裁を指揮したのは、ラクス・クラインなのか?」 「どうだろう。ラクス・クラインが、『プラントがセレベスに経済制裁を行っている』という事実を知っているかどうかは、疑わしいね。多分、ラクス・クラインの側近が、ラクス・クラインの意向としてやってることだと思うよ」 「…嫌な、感じだな…」 ディアッカは、顔をしかめた。 「簡単なことさ。ラクス・クラインは、世界中の民から絶大な支持を受けてるからね。少し悪いニュースも、彼女の前では立ち消える。それを利用して、ラクス・クラインがプラントの長でいる間に、自分達に都合のいいよう、世の中を変えていく気なんだろう。政治に明るくないラクス・クラインには、つけいる隙がおおいにあるだろうし」 ラクス・クラインのカリスマに隠れ、世間は異様な熱気で方向性を失っている。否、どこかの勢力が、思い通りに世の中を動かしている気配がした。ラクス・クラインの外見や歌声、綺麗な言動を垂れ流すマスコミに踊らされ、真実を覆い隠されたまま、次々と決められる民にとって先が暗い法や制度。 マスコミも、ラクス・クラインを裏で操っている勢力に、圧力をかけられているのだろう。あまりに、ラクス・クラインに、はてはその勢力に、都合の良い報道が多すぎた。そしてその勢力は、ラクス・クラインの極近くにいる。ラクス・クラインを良く知る者でしか、ラクス・クラインの存在を利用できないからだ。 「あまりにむごい仕打ちをして、民に愛想を尽かされたら、ラクス・クラインはそこで捨てられるんだと思うよ」 つまりは、ラクス・クラインを利用して、自らに都合のいいように世の中を動かし、そのためにラクス・クラインの支持が落ちたら、あっさりと切り捨てると、そういうことだ。 そして、それを危惧している者は、この世界に、あまりに少ない。 「しかし、そんなに状況を把握してて、なんでセレベスはプラントにもオーブにも、全く介入しなかったんだ?」 当然の疑問といえた。いつの時代も、正確な情報を持っている者が強く、最後に勝利する。今の話は、それだけの価値があるように思えたが。 ディアッカの問いに、ラスティはあからさまに嫌そうな顔をした。 「嫌味かよ」 「はァ?」 「セレベスが、世界的に権力を持ってると思うか?この、小さな島国が」 オーブは…、比較にならない。なぜなら、世界的に流通可能な、優秀なモビルスーツを生産できるからだ。その利益は、莫大なものになる。 「さっきも言ったけど、セレベスは自国を守るだけでかつかつなんだ。先の戦争に介入なんてしたら、片手で握りつぶされて終わりだよ。それに、下手に介入したら、オーブの二の舞になるのは、目に見えていたからね」 潔癖な理念と、暴露された裏取引の矛盾で、オーブは窮地に立たされた。地球にも宇宙にも味方はおらず、孤立無援の国は、ジェネシスの脅威に晒されたことは記憶に新しい。 オーブに、政治家が存在しないためだった。政治をする者が、潔癖な理念を唱えるわけもなく、裏取引を暴露されてしまうような愚を、しでかしてはならないからだ。 オーブには、思想家はいる。しかし、政治家はいなかった。そのために、度重なる不幸に見舞われていた。不幸は、自ら引き寄せたものだが、それを笑えるほど冷徹ではなく、同じ轍を踏まないよう注意を払うことがセレベスにとっての死活問題だった。 「ま、コレも、セレベスの財源が豊富でない証拠といえば、証拠なんだけどね」 そう言って、いつの間にか出た大きな空間に、同じく大きくそびえるシャッターのロックを、ラスティはカードキーをスライドして解除した。ゴウンゴウンと重い音をたてながら上がってゆく分厚いシャッターが上がりきるのを待たず、身をかがめて通り抜ける。 今までの、やや照明を抑えられた通路とは異なり、眩しいほどの光で目がくらむ。耳には金属がぶつかりあったり、削ったりする工事のような音。重油や排気ガスの臭いが鼻をつき、モーターが動く微かな振動を、身体はいつのまにか受けていた。 手のひらをかざし、しばらくして目が慣れると、そこに信じられないものを見ることになる。 「…バスター…」 ディアッカが、呆然としたまま、格納庫にそびえ立つモビルスーツを見上げた。 やや角ばった、重量感のあるフォルム。カーキとくすんだクリーム色が、迷彩服を着用した軍人を連想させた。細身で折れそうでもなく、美しく滑らかなラインを描くでもない、その骨太なモビルスーツが、ディアッカは気に入っていた。 モビルスーツは、外見ではなく、機能だ。それは分かっちゃいるが、好きなものを好きと言って何が悪い。いつしか、そう開き直っていた。 メンテナンスをしている作業者は、目に入らなかった。すいよせられるようにその機体に触れる。足先の金属は、硬く冷たい感触を返してきた。慣れ親しんだ感触だ。 「…隣は、ストライク…だよね?」 サイは、隣に立つストライクを見上げる。見慣れた白と青の機体が、バスターの奥に控えていた。 「どっちもモルゲンレーテから買い取った中古だけどね。チップはセレベス製のに載せ替えてある。各駆動部分も、なるたけ最新のものに換えてあるけど、最新型のストライクフリーダムなんかにゃ、遠く及ばないよ。ただ、機体とチップの連動は、最速に調整できてるのが、唯一の自慢かな」 ま、それも最新型には遠く及ばないけどね、とラスティが自嘲気味に笑いながら言った。 「これが、セレベスの現実。最新の武器を買う潤沢な資金もない。モビルスーツを思い通りに操る天才的スーパーコーディネーターがいるわけでもない。機械工学のスペシャリストも、職人技を魅せるメカニックだっているわけじゃない」 格納庫では、油と煤にまみれたメカニック達が、あちこちで慌ただしく作業を続けている。ストライクの後ろにも、ストライクダガーが数体並んでいた。 「これで、全部?」 「残念ながら。他には、モビルアーマーもあるけどね。戦力は、…知ってるだろう?」 「モビルアーマーで、ストライクフリーダムに突っ込んでいったら、一瞬で消されるだろうなァ」 「それでも、俺達はこの少ない戦力で戦わなきゃならない」 じっと。ラスティはストライクを見上げつつ睨んだ。睨んだのは、そう、ストライクじゃなかった。その先の、その先に立ちはだかる大いなる敵。正義を唱え、この世界を同じ色に染めようとし、セレベスを脅かす。彼の者は、既にセレベスに手を伸ばし、今にも息の根を止めようとしている。 セレベスの立場で考えてみると、本当にプラントは強大だった。虫けらが、人間に立ち向かっていくようなもんだ、と思う。それぐらい、様々な点で差は歴然としていた。 「聞けば聞くほど、状況は厳しいねェ」 「どうする?やめとく?」 ディアッカは、ラスティの問いに、鼻でふんと笑った。 「馬鹿にしてんの?逃げるわけないでしょ。それに、今逃げたところで、状況は悪くなってく一方だし?」 時が経てば経つほど、味方は減っていく。それどころか、敵となった者は、味方に引き入れようとし、敵を増やしていくのだろう。その甘い囁きに、自らが絡め取られないとは言い切れなかった。 孤独は、ゴメンだと思う。 かといって、自らを押し殺し、くすんだ世界に沈むことなど、考えたくもなかった。 オレはオレでいたい。 これからオレ達がすることを、皆「禁忌」だとそしるのだろう。神に祝福された天使が導く世界を、穢し、阻む行為は、許されない「禁忌」だと。 そんな世界など、 「捻じ曲げてやる」 ディアッカは呟いた。 その翌日、プラント代表ラクス・クラインは、セレベスへの訪問を発表した。 数時間後、セレベス大統領は、プラントの、ラクス・クラインの訪問を拒否する発表をする。苦肉の策の末の決断に、ラクス・クラインの反応は、いかにも世界の救済を唱える、聖者のものだった。 セレベスの発表は、セレベスに本拠地のあるレジスタンスを恐れてのものとし、レジスタンスというテロリストを根絶すべくセレベスへ向かいます。レジスタンスへ投降を勧め、セレベスのためにレジスタンスと戦うことも辞しません。 ラクス・クラインのセレベスへの愛は、再度プラント住民の感動を誘うこととなった。禁忌の存在が世界を捻じ曲げようとしているなどど、天使の美しさに目がくらんだプラント住民は、露ほどにも疑っていなかったのだった。 一方、セレベスは沈黙する。下手な言動も、行動も、自らの首を絞めることとなるからだった。 セレベス大統領も、表向きにできうる限りの手を尽くし、国民の命の安全のために、沈黙する他なかった。 頼みの綱は、裏向きの手段。こんな非常事態に陥った時のために、国家とレジスタンスを分離させていたのだ。国家が正面切って「ナチュラルの国」を主張したのなら、かつて自らの国を焼いたオーブの辿った道が、セレベスに重なることになる。 既にセレベスには、密かに準備していたレジスタンス組織しか、希望の光は残されていなかったのだった。 望みと言うには、儚すぎるほどの、頼りなく小さな光の。 前略、プラント代表ラクス・クライン議長。 貴殿の噂は、世界中に響き渡っている。本当に、素晴らしいものだな。 さて、貴殿はセレベスに訪問するそうだが。セレベス大統領の言葉は、理解できなかったのだろうか。もしや、言語が異なっているのではあるまいな?はてさて、そうすると、この言葉も通じないのやもしれんが。それは困るのだがね。簡単な言葉は通じると願って、こちらの意思を記そう。 セレベスには来るな。これほどの拒否を受けながら、セレベスを訪れるということは、セレベスを馬鹿にしているとお見受けする。セレベスを愛する者として、その行為は絶対に許すことができない。 故に、セレベス領内に入った時点で、貴殿を敵とみなす。 以上だ。 こちらの言葉が通じると良いのだがね。望みは薄いと見ている。これでも予言が良く当たると言われるのだよ。 では、また会おう。…戦場で、であろうな。 レジスタンス代表、アル・マッケンジー。 かくして、両陣営の宣戦布告はなされたのだった。 to be continued |
他では絶対に見られない、ドリームチーム。 ああ、楽しい。(本人だけ?(汗)) ちなみに、「アル」という名は、「R」からきてます。 本名の頭文字です。 |
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