GUNDAM SEED DESTROY
トモダチ5
ヤクソク
思った以上の戦場の凄惨さに、サイは顔をしかめた。 ザフトと、連合という名のオーブ艦隊、そしてアークエンジェル。三つ巴の戦場は海上という戦いの痕跡を残しづらい場所ですら、その刻み込まれた傷は深く。 戦艦やモビルスーツの残骸にまみれた海上を、絶望の傍らで船は進む。生存者を救うために訪れたものの、先刻から発見しているのは動かぬ者ばかりだった。 「アーガイルさんっ!」 (ああ、また戦死者か)と、半ば諦め気味に振り返ると、オーブの公的機関にギリギリ足を突っ込む、サイが設立した組織の者が顔を上気させていた。 設立者のサイが指揮はとっているものの、明確な上下関係はない。サイが望んだことだ。オーブに認めてもらっているのも、先の首相、カガリとのコネを使ったため、後ろ暗いところがないわけではない。が、それを押してでも、人命を優先したのもサイだった。 実際、海から引き上げた戦死者は、敵味方を問わない。 「どうかしたの?」 「先ほど引き上げた者が、息を吹き返しました!」 思いもよらない報告に、心臓がはねた。 「どんな状態なんだ?」 思わず、報告した者に詰め寄ってしまう。報告内容は嬉しい。嬉しいけれども、せっかく繋ぎとめた命を、むざむざ落とすわけにはいかない。 「はい。意識は戻っておらず、心電は微弱、血圧も低く、自発呼吸もまだの状態です」 それでは、まだまだ危険な状態だ。下手な船の揺れでさえ、致命傷になりかねない。 「その生存者を連れて、俺は即刻帰還する。残った者は、捜索を続けて」 サイの判断は早かった。 降りしきる雪の中、周囲を焼き払う炎。立ち込めた暗雲にそびえ立つ黒く巨大な機体。 全てを薙ぎ払う、デストロイ。 向かい撃つは、インパルス。 機体の大きさも、火力の激しさも、その能力の差は絶望的でさえあった。 「ゴメン、レイ。お願いがあるんだ」 「なんだ?」 出撃間際、準備に追われるシンが、同じくザクファントムに乗り込んだレイに話しかける。 なんとか修理を終えたものの、スラッシュザクファントムは、完全な状態ではない。だが、出撃できる機体を眠らせておくような余裕は、今のミネルバにはなかった。 「カオスガンダムに乗っているのは、スティングなんだ。俺は、スティングを助けたい。でも、多分、アウルやステラみたいに、俺のことを忘れてると思うんだ。だから…」 「難しいことを言う」 「レイ?」 シンの言葉を遮り、レイは言う。その声音には、温かみがあり、モニタに映し出された表情もまた同じ。 (シン、おまえは俺を頼ってくれるんだな) 自分がここにいる意味。自分が自分である意味。それだけでも、レイにとって十分だった。 「おまえの望みだ。必ず叶える」 「でも、ザクファントムは…」 「大丈夫だ。俺を信じろ、シン。俺もおまえを信じている。デストロイ、…止めてみせろ」 何の損得なしに信じてくれることが、ただ嬉しかった。この気持ちを持っていれば、俺は戦える。 「ああ、分かった。俺を信じてくれ、レイ」 慌ただしい格納庫で、整備士やパイロットが文字通りあちこちを飛び回っている。その中には、真剣な顔つきのヨウランやヴィーノ、怪我が治らず乗る機体もないルナマリアが、最後の調整に声を上げていたりした。 シンが守るべき人々。愛すべき人々。大切に思ってくれている人々。 「レイ、この前のことだけど」 「なんだ?」 格納庫を眺めたまま、静かな表情でシンは続ける。 「俺は、レイが死んだら泣くからな」 「!」 それは、医務室の前で、シンがレイに泣きついたときの言葉。 「シン、おまえは…。俺が死んでも、同じように泣いてくれるのか?」 シンの泣き声に掻き消され、レイですら本当に口にしたのかさえ分からなくなっていた。その言葉を、シンはちゃんと聴いて覚えていたのだ。 「聞いていたのか?」 「うん。…だからさ」 モニタに映ったレイに、顔を向けなおす。 「俺を泣かせるなよ?」 死ぬなよ、と。 珍しくレイの表情がくしゃりと歪んだ。 「ああ、分かった。絶対に、だ」 「ステラ!」 「シン…!」 ビームサーベルで斬られ、露出したデストロイのコックピットにいたのはステラだった。怯えていた瞳が、シンの姿を認めると、安堵するのが分かる。 良かったとシンが胸を撫で下ろした直後、ステラの顔色が変わった。敵を見る目。脅威に恐れる目。シンから視線は逸れている。…それなら、何を見て? 「いやぁぁぁぁぁーーー!!」 ステラが悲鳴を上げると同時に、デストロイの胸の砲口が開いた。まずい、ここでまたデストロイの砲撃を加えたら、さらに甚大な被害が…!シンは、止めようと咄嗟にデストロイに近づこうとした。 「やめろ、ステラ!」 「シン!後ろ!」 鋭い声に、シンは反応する。先刻までインパルスの機体の一部が死角となりバックモニタで見えなかった機体が、バックモニタに飛び出るように映り、デストロイのコックピットを狙って今にもビームサーベルを突き出そうとしていた。 「フリーダム!…また、アンタかぁぁ!」 瞬時に沸騰する怒り。 インパルスの腕を突き出す。インパルスの反撃など全く想定していなかったフリーダムの腕は、容易くインパルスに掴まれた。 「なっ!」 「そう何度も、させるかよ!」 フリーダムがデストロイに突っ込もうとした動力をそのままに、インパルスの動力をも加算させる。加速したインパルスの機体で、思い切り、 「いっけえぇぇぇ!!」 デストロイを蹴った。 ビクともしないかと思われたデストロイの機体は、フリーダムとインパルスの2機の動力にはさすがに耐えられなかったのか、ゆるりとその巨大な体を傾ける。胸の砲口は唸りを上げ、赤い光線がインパルスとフリーダムの機体を掠めていく。光速で描かれた赤い線は、雲を突き破り、天に突き刺さっていった。 土煙と重い音を立てて、デストロイが地面に倒れていく。土煙の間に、コックピットでうずくまるステラを認めると、シンはフリーダムを振り返って睨んだ。 「アンタは、いつも、…いつも…っ!」 掴んだ腕をそのままに、もう片方のインパルスの腕はビームサーベルを取り出す。何をするのか悟ったフリーダムは、即その機体を引こうとした。 「遅いっ!」 インパルスのビームサーベルがフリーダムの右腕を肩から切り落とす。切り取ったフリーダムの右腕を投げ捨てると、ビームサーベルで薙ぎ払う。右腕を失い、バランスをも失ったはずのフリーダムはそれでも、するりとインパルスのビームサーベルを避けた。 「ちっ!」 「させない!」 舌打ちしたシンをよそに、フリーダムは残った左腕でビームライフルを構える。狙うはインパルスの背後で倒れたデストロイだ。 「性懲りもなく!ステラには、もう戦う意思はないんだ!そんな相手を、オマエは撃とうって言うのかよ!」 インパルスの機体で、ビームライフルの軌道を遮る。 させない。絶対にさせない。ステラを守る。もう二度と、大切な者を死なせない。自らの命が散っても、それだけはさせないんだ! 「君を撃ちたくない。撃たせないで!」 「じゃぁ、撃たなきゃいいだろ!」 躊躇したフリーダムをそのままに、なりふり構わずシンはインパルスを突っ込ませる。 「はぁぁぁぁっ…!!」 いつのまにか、気合が声となって発せられていた。 フリーダムは、躊躇だけではなく立ち竦んでいた。あまりにも真っ直ぐで強いシンの意思が、インパルスと一緒に大きな波となって飛び込んでくるのを、巨大な人型が大きな手を伸ばしフリーダムごとキラを飲み込むように見えたキラは、心底その意思を恐れたのだ。 体全身が、恐怖で震えている。 (なんだ、これは!そんな…、僕は…!) 恐怖におののいて身動きがとれない間に、ビームライフルを構えた腕ごと、ビームサーベルに斬り取られる。重力によって落ちていく腕は、空中で爆発し霧散していった。 信じられない、とキラは目を見開く。 「そんな馬鹿な…!」 「キラ!帰艦してください!」 鋭く刺すようなアークエンジェルからの通信が割り込み、我に返ったフリーダムは、追い討ちをかけようとしたインパルスのビームサーベルをすんでのところで避け、撤退していく。 「待てっ!」 「インパルス!エネルギーが残り僅かです。帰艦してください!」 メイリンの声だった。 フリーダムしか見えていなかった視界に、暗い雲と降りしきる白い雪が入ってくる。遠ざかるフリーダムを睨もうとして、なんとか踏みとどまった足に力を入れ、メイリンの声に集中した。沸騰していた脳が、ゆっくりと冷えていく。ずっと鳴っていたのに聞こえなかった残エネルギーのアラームが、やっと耳に入ってきた。自らを落ち着かせるため、ひとつ、大きな息をつく。 「了解。インパルス、帰艦します」 戦闘の興奮で上がっていた息を、ゆっくりと整える。モニタに映ったメイリンに、シンは微笑みかけた。 「さっきの声…、メイリンだったんだな。ありがとう…。おかげでステラを助けられた」 「シン…」 「ひとつ、お願いがあるんだ。艦長に、ステラとスティングを、ミネルバに乗せていいか、聞いてもらえる?」 あれ?と、メイリンは思う。 今までのシンなら、誰の言葉も聞かず、自らの思うところを突き進んでいたところだ。メイリンに微笑みかける穏やかな表情も、見たことがない。 「…うん、聞いてみる。…あ、…聞きます!頼んでみます!」 スピーカーから届くメイリンの声は、心なしか嬉しそうに上擦っているようだった。 to be continued |
シンに言わせたセリフは、ホント本編とか連ザとかで私が突っ込んだセリフです(笑)。 シン主人公のお話。 シンがきちんと主人公ならば、こういう話になってたかなー、なんて夢。 レイとか、ステラとか、多大に夢を見まくってますが、悔いはありません(笑)。 レイは特に、シンとの関係がこんなふうだったらよかったのにな、と思います。 |
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