GUNDAM SEED DESTROY
遠き栄光
8
「退避―――っ!」 ラスティからの連絡で、サイは即座に理解した。敵の本拠地に潜入したのだ。ロクな連絡は取れないことを想定し、必要最小限のことしか連絡を取り合わないことにしていた。だというのに、届けられた拙く短い文章がラスティの必死さを十分に表現していて、ただ事ではないとサイは判断したのだった。 「退避って、このストライクダガーの軍団、どうすんのよ!」 「いいからゴリ押しでもなんでも、さっさとそこから離れるんだ!」 穏やかな彼にしては珍しく、ルナマリアの抗議にサイは鋭い声を上げた。 「艦長?」 「彼の言うとおりにしなさい」 レイの冷静な問いかけに、サイの様子でタリアも事態の深刻さを理解したのか、少々青ざめた顔で応える。 「普通じゃないわね。他の艦隊にも、呼応してくれるかどうか分からないけど、打電してみるわ」 「お願いします。どこまでできるか分かりませんが、プラントの非難命令も」 「分かったわ。議長に直接連絡する」 冷静に話しているが、サイもタリアも、それが間に合わないことはその時点で分かっていた。艦隊はまだしも、プラントの非難命令など、確実に間に合わない。 「スティング!ステラ!」 「了解、こっちも戦線を離脱する」 ミネルバに戻り、ディスティニーガンダムの整備を待っていたシンが、軌道上に残るスティングとステラに声を上げる。 あまり時間はなかった。ミネルバと全てのモビルスーツがなんとかギリギリで軌道上から離れると間もなく、ダイダロス基地に眩い光が現れ、厚かったストライクダガーの壁を破壊し、光速で空間を引き裂いてゆく。巨大な光線が、軌道上にいた戦隊やモビルスーツをことごとく破壊し、さらにその光を大きく見せて、突き進んでゆく。 「な…。ストライクダガーは、味方のはずだろ…?」 レクイエムから放たれた光線は、容赦なく自軍のモビルスーツを破壊して突き進んでゆく。敵の油断を引き込むためだとしても、いくら無人のモビルスーツだとしても、それはあまりにも無防備過ぎやしないか。 突然、宇宙を突き進んでいた光線が、前触れもなくぐにゃりと歪んだ。 「軌道上にあった廃棄コロニーで、軌道がずれました!」 「なんですって!?到達点は!?」 「ヤヌアリウス・ワンからヤヌリアウス・フォーです!」 その直後、遥か遠い場所で、音もなく巨大なコロニーが半壊した。 信じがたい光景に、ミネルバのクルーは言葉を失う。 そこには、多くの人々の営みがあったのだ。親子などの、命の繋がりがあった。それを全て壊して…。 「壊す権利なんて、誰にもないだろ!」 鳥肌が立っている。怒りが沸騰していた。圧倒的な攻撃に、為す術もないまま命を落としていったであろうプラント住民に、翻弄されるまま消えていった家族の命が重なる。 (もう二度と失わせないって、そう思ってたのに…!) まただ。また、失ってしまう。少しずつ強くなって、今度こそ守ると決めていたのに。 でも。 「艦長、俺、出撃します」 「何を言っているの!?まだディスティニーガンダムは…」 「まだ動きます」 動くと言っても、普段の半分以下の性能になっているだろう。まともな思考なら、まず出撃しようなどと思わない。けれど。 「俺は、死んでもみんなを守りたい」 静かな決意がそこにあった。 まだ、終わりじゃない。やらなければならないことは、まだある。歩んだ道には過ちもあった。けれど、それを後悔するのは、やるべきことを全うした後だ。たとえ、手元に残る力が僅かだとしても、諦めるのは早すぎる。 「では、私も僅かばかりだが、助力しよう」 唐突に、低い男の声がかけられる。 「議長!?」 モニタには、プラント最高評議会の議長、事実上のプラント最高権力者のギルバート・デュランダルがいた。 「いや、大変なことになったね」 「そんな悠長なことを…」 「私はね、あまり気の長い方ではないのだよ」 動かない穏やかな表情と落ち着いた声で惑わされていたが、デュランダルは本気で怒っているようだった。 「そうはいっても…」 「議長、それならば、お願いがあるのですが」 「君は?」 「オーブ首長国連邦、特殊機関サイ・アーガイルと申します」 「ああ、君がサイ君か」 デュランダルは、サイの存在を知っていたようだった。その事実に驚くこともなく、サイは言葉を続ける。サイは、プラントの議長がこちらをマークしていたことなど、把握済みだったのだ。 「プラントで極秘開発されていたアレを貸してください」 「そうくると思っていたよ。私も同じ考えだ。上手く使ってくれることを信じているよ」 「ちょ、ちょっと待って。何のこと?」 当たり前のように進む会話は、サイとデュランダル以外の者には、さっぱり分からない。タリアはわけの分からなさに悲鳴をあげた。 「ネオ・ジェネシス」 「!」 それは、先刻プラントを攻撃せしめた兵器の原型ではなかったか。いや、それは『ジェネシス』であって、『ネオ・ジェネシス』とは。 「その名の通り、ジェネシスの後継機だよ。本当は、連合を駆逐するために開発したものだったのだけれどね」 「でも、撃ったら同じことでしょう!?」 報復のために撃ち返すというのか。それでは、ブルーコスモスと同じく卑劣な輩に自らを貶めてしまう。 デュランダルには、タリアの憂慮が手に取るように分かるのか、宥めるように微笑んだ。 「だから、使い道は、この青年に委ねているのだよ。私は不器用だから、最も効果的に相手を滅する方法しか、考えられないのでね」 「道を作ります」 サイは、簡潔に告げた。 「レクイエムの発射で一旦退避してしまったために、随分とダイダロス基地から離されてしまいました。レクイエムの二射目までには、少し時間があります。他にも阻止する手立ては打ってありますが、こちら側からもダイダロス基地へ突入して、他の攻撃をも無効化させたい。そのために、ネオ・ジェネシスを使わせていただきます」 「ふむ。任せよう」 「そして、もうひとつ、お願いがあります」 「なんだね?できることであれば、手を貸すが」 「プラントの守備隊を、こちらに少しまわしてもらえませんか?」 「一番、ダイダロス基地に近い部隊…か」 デュランダルは、そこでくすりと笑った。周りの者は、なぜ笑ったのか全く分からずにいたが、サイだけはデュランダルを真っ直ぐに見つめている。 「よもや、そこまでお見通しとはな。分かった。ジュール隊をそちらに向かわせよう」 「ありがとうございます」 先刻のレクイエムの軌道をずらしたのは、廃棄コロニーで戦闘を行っていたジュール隊の戦功だった。結果としてプラントの一部が崩壊されたものの、被害の面では雲泥の差がある。ジュール隊がいなければ、先刻受けた被害の何倍もの被害があったことだろう。 ヤヌアリウスの対処に追われ、僅かな時間の合間を縫った会話は、すぐに終わりを告げた。それぞれが、ひとつ小さな息をついた時。 「艦長、アークエンジェルより入電です」 「どうしたの?」 既に、キラの説得で敵対行動を解除しているアークエンジェルだったが、ずっと沈黙を保っていた。今更なんだというのだろう。キラの穏やかな顔がモニタに映し出され、タリアは首を傾げる。 「お待たせしました、タリアさん。シンとレイに、贈り物があるんです」 ミネルバに近寄ってくる機体は、随所に見慣れたところがある。 「ストライクフリーダム。それと、ミーティア2つです。これを使ってください」 目を見開いたシンに、キラは無邪気そうな表情のまま微笑んだ。 「シン。信じてくれた君に、プレゼント。君仕様に整備してある。最終チェックは、君の友達のメカニックに任せるけどね」 「でも、そんな急に違う機体で戦うなんて…」 「君になら、できる。僕は信じてるよ」 普通に考えれば、戦場で乗る機体を変えるなんて、正気の沙汰ではない。機体の性能の差異もあるが、それ以上にパイロットが機体の性能を引き出すのに細かな調整と慣れが必要だからだ。 けれど、特訓を共にしたキラが、自信を持ってシンを信じると言ったのだ。 「分かりました。俺、やってみます」 信じるってさ、凄い力なんだよ。『信じてもらえてる』と思うと、自然と力が湧いてくるんだ。 いつかのキラの言葉。そして、シンも、その言葉とキラを信じていた。それだけの訓練を、二人で協力して成し遂げてきたのだから。 「『ネオ・ジェネシス』を、ダイダロス基地へ撃ち込みます。だけど、基地そのものを破壊するために撃つわけじゃない。あそこには、ラスティもいる。だから、少し、ずらします。ストライクダガーの壁に、穴を開けられればいい」 ミネルバの司令室で、テーブルに映された図面を指差しつつ、サイが作戦を説明する。 「『ネオ・ジェネシス』の弾道の後を、ストライクフリーダムで追いかけます」 「なっ…」 「計算上は、可能です」 「そんな!無茶だ!弾道の後は、レーザービームの余波で、電子の動きが滅茶苦茶なんだぞ!?それがモビルスーツに与える影響は…」 「レイ」 珍しく声を上げたレイを、シンがやんわりと押しとどめる。レイが振り返ったその先には、落ち着きはらったシンの表情があった。 「大丈夫。ミーティアを装備したストライクフリーダムなら、できる」 「だが、前代未聞だ」 「計算上できる、っていうんだから、それだけで満足だ」 覚悟が決まっているのだ、と思う。今まで見た中でも一番、シンの表情は静かだった。ならば、レイのすべきことも決まっていた。 「…分かった。俺はどうすればいい?」 「ストライクダガーの壁に穴を開けた後、ストライクダガーは即座に戦術を変えてきます。その途中の隙を、叩く」 「了解した」 その隙も、きっと長くはもたない。作戦には、スピードを要求される。 「シン。君は、ダイダロス基地へ着いたら、レクイエムの破壊を最優先させて。きっと、基地内でラスティ達も阻止しようとしてると思うけど、レクイエム自身がなくなってしまえば、もう二度と撃たれることはないから」 「了解」 「申し訳程度だけど、ストライクフリーダムのシールドに、ビームの偏向装置を取り付けておいたよ。どこまで通用するか分からないけれど」 「助かります」 「俺もさ。信じてるから」 「はい。俺も、サイさんの作戦を信じてます」 激励するようにシンの肩に手を乗せると、随分と大人びた表情でシンもサイに笑いかけた。 「ネオ・ジェネシス発射準備完了。カウントダウンに入ります。10…、9…」 ブーストを温め、いつでも発進できるよう体勢を整える。 「…3、2、1。発射!」 途端、ネオ・ジェネシスの軌道上近くに準備していたストライクフリーダムの機体が、ネオ・ジェネシスの光線に引き寄せられる。これが敵なら、引き寄せて爆破するところなのだろう。だが、そうはいかず、さらに弾道の後を追わなければならないために、そんなに離れるわけにはいかない。 「ぐっ、このっ…」 引き寄せられる引力と、離れようとするストライクフリーダムの動力の均衡を保つには、細やかな神経が必要とされた。 「初っ端から、これかよ!」 ギリギリのバランスで、弾道近くにストライクフリーダムを据え置く。引力と動力があいまって、機体は生き物のようにブルブルと震えていた。数瞬、バランスをとることと戦った後、ふっと眩かった光が遠のいた。 「シン、今だ!」 「了解!」 シールドをかざして、ネオ・ジェネシスの弾道の軌跡に入る。途端、ストライクフリーダムからきしむような悲鳴が上がった。 「そこに留まらないで!シールドの圧力の裏側に隠れるんだ!」 ブーストを一気に最大加速へ上げる。ブーストは唸りを上げたが、最大加速に反発することはなかった。事前にブーストを温めておいたお陰というところか。 弾丸のように、レクイエムの弾道の軌跡を辿る。シールドの影に隠れ、なんとか電子の嵐を突き進む。ジェットストリーム。レースなどで、前走者の風圧の影にかくれ、自らの抵抗を減らすスリップストリームと同じ原理だ。 「行っけぇー!」 荒れ狂う電子の干渉に、ひっきりなしにアラームが鳴っている。 「もってくれよ!」 ビリビリと揺れる操縦桿に、ストライクフリーダムの悲鳴が伝わる。電子の渦に抵抗し摩擦しているのか、装甲が熱を持ち、ぐんぐんとコックピットまで暑くなってゆく。 恐くないと言ったら、嘘になる。いつストライクフリーダムが爆発するかでさえ、予測できなかった。ストライクフリーダムの手足が、発生する熱によって爆発し始めたとしたら、コックピットまで伝わる前に、即座に切り落とさなくてはならない。そして、ストライクフリーダムの装甲が耐えうる限界値まで、あと数秒しかもたない。 ネオ・ジェネシスの威力は本物で、あれだけ厚かったストライクダガーの壁には、ぽっかりと穴が開いていた。その先に、目指すダイダロス基地が垣間見える。 目標がこんなにはっきり見えるというのに。見えるというのに、こんなところで倒れてたまるか! 「もう少し!」 「おっそいんじゃないのぉー?」 唐突にかけられた声と、あり得ない機影を目が捉える。 宇宙の中でも鮮やかに青い、海色の機体。 「アウル!」 「あの馬鹿!」 シンの声と、既に背後に遠く離れたスティングの声が重なる。 「おー待ーたーせー。助っ人登場ー、ってね!」 「アウル!下がって!アビスガンダムじゃ、この電子の渦に耐えられない!」 「なーに言ってんの。コレが見えない?エルスマンのおっさんに頼んで、宇宙用に改造してもらったんだよねぇー」 そう言って、海色の機体はストライクフリーダムの前に陣取る。その形態は、飛行形態。海中では潜水形態であったものだ。丸みを帯びた装甲は、魔法のように電子の摩擦を弾き返してゆく。 「…ビーム偏向装置…」 「そー。ゲシュマイディッヒ・パンツァー。…って、あー、何度言っても舌噛みそ」 アビスガンダムのジェットストリームに入り、ぐんぐんとストライクフリーダムの装甲表面温度が下がってゆく。これなら、いける! 「アウル!」 「おっけー!行っくぜぇー!」 彗星のごとく、二つの機影は一気にダイダロス基地へ突き進んでいった。 ミネルバのコンピュータルーム。ミネルバの機器を統括するシステムの中枢は、そのコンピュータルームの中央、スーパーコンピュータにあった。その前のコンソールで、必死にキーボードを叩いている少女がいる。 メイリン・ホーク。あまり知られていないが、彼女は有能なハッカーでもあった。間違えられがちだが、警察等の公共機関の合法的なものをハッキングと言い、非合法なものをクラッキングと言う。もちろん、メイリンは非合法な情報収集や売買をしたことがなく、これからもする気は毛頭なかった。まあ、好きな人の誕生日を調べるとか、そういったかわいいことはこの際許して欲しいが。 目にも止まらぬスピードで、カタカタとキーボードを打つ手が止まることはない。 「うん。よし。繋がったわ」 と同時に、背後で扉が開き、部屋に入ってくる人影があった。 「サイさん!」 「ゴメン、メイリン。遅くなった。調子はどうかな?」 「こっちは大丈夫です。今、ダイダロス基地のメインコンピュータに繋がったところです。サイさんこそ、司令室を離れていいんですか?」 「うん。タリアさんに任せてきた。タリアさんなら、後は上手くやってくれるはずだから。むしろ、俺はこっちに居た方がいいかな、って思って」 その言葉で、メイリンの顔には、ぱっと赤い花が咲いた。 「嬉しいです!頑張っちゃいますね!」 「ああ。頼んだよ」 無邪気な反応に、サイはくすりと笑う。 実際、サイがコンピュータルームに来ても、できることなどない。ハッキングなど、サイの専門分野からは遠く離れていて、詰まるところ、何も分からないからだ。けれど、サイがここに居る意味を、サイもメイリンも十分に理解し、その利を十分に享受している。 メイリンのキーボードを叩くスピードは、さらにぐんと上がったからだ。 遠く離れた場所で、見慣れたコロニーが崩れ去ってゆく。人間という自らの尺度を遥かに超え、あまりにも大きすぎて、最早、加工された映像を見ている気がしていた。現実感がまったくない。その場所で、何万人もの命が一瞬にして消えた現実など、到底理解しがたかった。 止められなかった。目の前で凶悪な兵器が発射されるのを見ていたというのに、何もできなかった。 打ちひしがれて、がっくりと膝をつこうとした時、ふと、ディアッカやサイの顔が思い浮かぶ。くじけそうになっても、何度も立ち上がるシンの姿も。 ああ、そうだ。俺はこんなところでくじけてる場合じゃない。生きている命がある限り、救うために何度でも挑まなくちゃならないんだ。 そのために、まずは、立つ。次に、できることを模索する。 「二射目は絶対に撃たせない。このコントロールルームを破壊する。第二のコントロールルームがあるはずだ。なんとしてでもオペレーターに吐かせるか、自力で見つけ出せ。残った者は、俺についてこい。当初の予定通り、ストライクダガーの大軍を操るエクステンデッドを止める」 「了解!」 淀みなく告げられる言葉に、ラスティの部下から動揺が消え去っていった。 立ち止まっている暇はない。できることをひとつずつこなせ。生きている命を守れ。 そのために、俺はここにいる。 立て続けに大きな爆発音が響いて、通路が地揺れした。手近なコンソールを見て確認する。ダイダロス基地のEブロックとKブロックから、避難命令が出ていた。先刻いたブロックがEブロックであるから、Kブロックは第二のコントロールルームだろう。ラスティの部下達の働きだ。 「やったか」 安心はできない。レクイエム自身が存在する限り、第三、第四のコントロールルームがある可能性は拭えない。ラスティの予想では、きっとこの基地の最高権力者、ロード・ジブリールが手にするリモコンひとつで起動する。最終的にはレクイエムを破壊しなければ、レクイエムの発射を完全に止めることはできないが、それはラスティのすべきことではない。 「頼んだよ、サイ。シン」 ラスティは小さく呟くと、エクステンデッドがいる部屋を目指した。 普段の明るい笑顔は鳴りを潜め、真剣な表情でキーボードを叩くメイリンの背後に、邪魔をせぬよう、ただし存在を示して安心させられるよう、微妙な距離感を持ってサイは立っている。めまぐるしく動くモニタの字列に軽く眩暈を起こしそうだ。この文章を上から下まで把握しているというんだから、メイリンの才能は凄まじい。 「第三ロック解除」 メイリンの右隣に映された画像のある部分が、カチリと外れる。丁度、鍵が外れた扉のようだった。 「第二ロック解除」 もうひとつの画像が、同じようにカチリと外れた。もうひとつ。 「…第一ロック解除!これであちらのコントロールを掌握しました!」 「ありがとう、メイリン!」 がばり。唐突に抱きつかれて、メイリンの思考は停止する。今まで、サイに抱きついたり、サイの腕を勝手にとったりしたものの、サイから抱きつかれるのは初めてのこと。かっと、思わず顔が熱くなる。 そんなメイリンに気づくこともなく、サイはメイリンから体を離し、司令室に通信を繋げた。 「タリアさん、ストライクダガーのコントロールを掌握しました。いつでもいけます!」 「分かったわ。早速、ストライクダガーの動きを止めて」 多少上擦ったサイの声にも、タリアの反応は冷静だった。だから、ミネルバはここまで戦い抜いてこられたのだろう。 「了解です!…メイリン!」 「…はっ、…はい!」 思わぬサイの行動にぽーっとしていたメイリンが、我に返ったようにサイの呼びかけに反応する。 メイリンがなにやらキーボードを操作すると、ぴたりと、ストライクダガーの動きが止まった。 「操り手がいなければ、人形はただの人形だ」 サイの言葉が、目の前の現実を如実に表す。 「皆!今よ!」 「了解!」 動かなくなったストライクダガーを前に、ミネルバのモビルスーツ達は一斉射撃を開始する。 「タンホイザー発射!」 陽電子砲が、ストライクダガーの軍団を貫いてゆく。その攻撃につられるように、ザフトのモビルスーツ達がいまだ動かぬストライクダガーの壁に突っ込み、肉迫していった。 そんな中、メイリンがなにやら操作を続けていたせいで、繋がった声がある。 「あー、サイ?」 「ラスティ!」 その声は、間違いなくダイダロス基地に潜入しているラスティのものだった。 「こっちも、ストライクダガーを操作してるエクステンデッドを拘束したよ」 「さすがだね」 「でも、レクイエムは止められなかった」 「分かってる。でも、コントロールルームは破壊してくれたんだろ?」 いつもどおりの陽気な顔のままで分かりづらいが、ラスティは消沈していた。無理もない。目の前でレクイエムが発射されたのだろうから。今は何を言っても慰めにはならない。サイは、あえてそれを無視した。 「ああ、第一と第二をやっておいた。多分、もうないけど、ロード・ジブリールが個人的にレクイエム発射の強制アクセス権を持ってるかもしれない」 「分かった。今、シンとアウルがレクイエムの破壊に向かってるから」 きっと、レクイエムを止めてくれる。 to be continued |
影の立役者。メイリン。 そして、その後ろに立つサイ。 そうか、この世界を掌握するのはサイだったのか(違)。 |
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