GUNDAM SEED DESTROY
トモダチ1

ハジマリ



 やっとのことで自然の要塞の崖から解放されると、ステラを迎えに来た車と向かい合う。陽が落ち、薄暗い中、車のライトが目に眩しい。車から降り立ったステラの足が、アスファルトに黒い線をくっきりと描いた。
 ステラが、顔をほころばせて、車から降りた緑色の髪の青年に駆け寄っていく。ちょっと悔しい気はしたが、戦いが終わっても誰もいずに独りだけという、寂しい感覚を味わうのは、自分だけで十分だった。
「バーカ、何やってんだよ、ステラ」
「よせ、アウル」
 アウルと呼ばれた少年が、ステラを軽く小突くと、緑色の髪の青年が間に入って制止する。シン達の手前だからだろう。その動きで、いつもはそういった砕けた雰囲気であることや、緑の髪の青年がアウルとステラの世話役のような図式が垣間見えた。
「ありがとう。助かった。いなくなって、心配してたんだ」
 礼儀正しく、緑の髪の青年は笑顔を見せる。…まあ、営業スマイルであることは違いなかったのだが、なぜか嫌味は感じさせなかった。…場数を踏んでいるのだ。
 緑色の髪は短く、天に向かってつんつんと立っている。切れ長の目もややつり目で、ぱっと見ではキツい印象なのだが、彼の柔らかい物腰がそれを覆していた。彼の容姿が彼のそのものの性格を表しているのか、はたまた動作が彼の性格から来ているものか、正確なところは、もちろん分からない。
「いえ。結局、自力じゃ助けられなかったし」
 シンは、迎えに来たアスランとルナマリアを振り返る。
 その視界の端に、一瞬、アウルの表情が見えた。見間違いかと改めて見ると、もうその表情は霧散してしまっているが、睨むような敵意のある視線を放ちつつ、
「けっ。頭悪いんじゃないのー?」
という言葉が、その表情から読み取れたわけで。
 軽く馬鹿にされたシンは、礼儀を心得た精一杯のよそゆきの表情を引きつらせた。と、同時に、反撃の手段を思いつく。このあたりがまだまだ子供だ、とは自覚してはいる。
 すっと、アウルの目の前に手を差し出した。ぽかんと、差し出されたシンの手を見る顔は、かなり間抜けだ。シンはほくそ笑むと、営業用スマイルを浮かべた。
「俺は、シン・アスカ」
「あ?」
「よろしく」
 満面の笑みを浮かべる。至極友好的に。
 これでシンの手をとらなかったら、人として疑われることだろう。なぜ、これだけの好意を無下にするのか、と。なぜ、純粋に向けられた思いやりを足蹴にするのか、と。
 差し出されたシンの手をじっと見つめつつ、体を固まらせたアウルに、シンは追い討ちをかける。それまでの表情と打って変わって、いたずらっぽく笑うと、瞬時に意地悪そうな顔に変え、じとりとアウルを見据えた。
「握手くらいすれば?」
「…なっ!」
 反応はすこぶる早い。一瞬にしてシンを睨み返すと、ひったくるようにシンの手のひらを掴み、何かを吹っ切るかのごとくぶんぶんと振る。先刻までの優位とうってかわって、なんだか負けているような気がして、シンも負けずにぶんぶんと手を振った。
 親の仇のように大きく手を振る2人に、
「…何してんだ、おまえら…」
呆れたような声で緑色の髪の青年が呟くと、シンとアウルが同時に必死な形相で振り向く。
「握手!」
 一寸もタイミングをずらさず、重なり合う声。そのことに気づいて、シンとアウルが硬直した。
「なんで真似するんだよ!気持ち悪っ!」
「おまえこそ、俺の言うこと真似すんな!寒気がすんだよっ!」
 真似…というより、発声は同時だったのだが。本人達はおかまいなく顔を突き合わせて言い合っていた。そんなところ。
「シンとアウルは仲良しさんなんだね。…いいなぁ…。ステラも握手したい」
と、場違いな呟きがもれる。そのまま、ステラは緑色の髪の青年を見上げると、
「スティングは?シンと握手しないの?」
と、首を傾げた。
 毒気を抜かれ手を振るのを忘れたシンに、ぎこちなくスティングが手を差し出す。シンの方もぎこちなく手を差し出すと、2人は握手した。そのぎこちなさは、子供が大人のスーツを身につけたような、ちぐはぐな感じだった。でも、嫌な気はしない。シンもスティングも、相手の手の、ホッとするような温かさを感じていたから。
「ステラも!シンと握手するの」
 おもちゃを欲しがる子供のように、ステラがシンとスティングの間に入って声を上げた。スティングが「はいはい」と言うように場所を譲ると、ステラが恥ずかしげに顔をあからめながらも、おずおずと手を差し出す。シンは、ゆっくりと大事そうにステラの手を握った。
「よろしく、ステラ」
「うん。よろしくね、シン」
 シンの手のひらの感触を確かめるように、何度も何度もステラはシンの手を握り返す。その温かさと存在感に、嬉しそうに満面の笑みをシンに向けてきた。真っ直ぐな好意に、シンも照れを隠せない。
「あ」
 と、何かに気づき、シンが唐突に呟く。
「俺は名乗ったけど、名乗ってもらってない」
 視線こそアウルに向けなかったものの、その言葉はまさしくアウルに向けたものだった。
 明後日の方向を見上げ、「けっ」と、アウルが吐き捨てる。
「アウル・ニーダだよ。シン」
 そして、不敵にニヤリと笑いつつ、シンへ視線を戻した。その目は、予想に反して暗いものがない。
「よろしく。アウル」
 シンも、負けずにニヤリと笑うと、アウルの水色の瞳を見つめ返した。なんだか変な感じがして、最初小さく笑うと、いつのまにかその声は大きくなり、2人で笑いあった。
 …予感がする。
 これは、肩を並べる同士を見つけたような、そんな。
 きっと…。


to be continued



ハジマリです。
出会いです。
青春大爆発な内容になる気配がしますね。
…きっとその予感は当たっている気がします…。


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