朱に



「よう、朔羅じゃねえか」
 気安く声をかけたのは、少々赤い顔をした、甘寧だった。ご機嫌な表情が、少々の酒で肴をつまみ、腹を満たしているのだと知れる。
「甘寧様」
 夜の帳の中、鍛錬場で相変わらず剣を振っていた朔羅は、手元を休めて甘寧に向き直ると、几帳面な礼をした。
 甘寧は、水軍の部下を数人連れていた。あまり上下を気にしない甘寧の性格からか、甘寧を慕う者は多く、一緒に酒を囲むことは多いらしい。部下達も甘寧と同様に少々赤い顔をしていた。
「精が出るなー。ホント真面目だよ、おまえ」
「いいえ。好きなだけですよ」
 ニコリ、と甘寧に微笑み返す。
 本当のことだった。凌統の背中を追っていくことが好きだから。そのために当たり前のことをしているだけだ、と。
 面食らったのは甘寧の方だったらしい。
「マジかよ。おまえも変わってんな」
「そうですか?」
「鍛錬が好きなんて、俺の部隊に言う奴はいねーやな」
 一緒にいた部下達を見回し、甘寧はカカカっと楽しそうに笑う。部下達も、「そりゃねーですよ、大将」と言いつつ、楽しそうに笑った。
 朔羅は、良い雰囲気だなぁ、とつられて微笑みながら思う。
「ひとりで剣振ってんのもなんだしな。ちょっと腹ごなしに相手しろや、朔羅」
 甘寧は、立てかけてあった鍛錬用の剣をひょいと掴み、くるくると軽く回す。軽い運動とばかりに、その行動は軽い。
「良いのですか?甘寧様は、少々お酒に酔っておいでのようですが…」
「ああー?これくらい『酔う』に入らねぇよ。ダイジョーブダイジョーブ!」
 言い様は酔った人間のそれだが、瞳の色は、いつもの甘寧だった。どうやら本気らしい。
 朔羅としてみれば、願ったり叶ったりだった。ずっと一人で鍛錬をしていたから、しばらく人を相手に戦っていない。しかも、相手はあの鈴の甘寧だ。相手にとって不足どころか、朔羅にとって十二分の相手となろう。
「よろしくお願いします!」
「はいよ」
 言い終えると、一瞬にしてなごやかだった空気が変わった。引き締まった空気が肌を刺す。本気を出したわけでもない甘寧からは、圧倒的な気迫が発せられていた。
(凄い!)
「かかってきな、朔羅!」
「はい!」

 にわかに、鍛錬場が騒がしくなった。
 激しく鳴る剣戟の音に、見物客が増えていく。誰かが用意したらしい松明の灯りで、戦っている者の姿は闇の中鮮明に浮かびあがっていた。
「遅え!もっと早く踏み込めよ!」
「はい!」
 ギィン!
「そこで止めんな!振り戻して追い討ちかけろ!」
「はい!」
 ガッ!
 剣と剣がぶつかり合う音。発せられる鋭い声。
 目にも止まらぬスピードで立ち回る2人は、まるで剣舞を踊っているようだった。
 朔羅の虚を突いた攻撃に、歓声が上がり、そんな攻撃をものともしない甘寧の受け流しに、どよめきが上がる。
「朔羅!そこだ!やっちまえー!」
「大将!押されてますぜー!」
 甘寧の部下達は、思い思いの声を、好き放題に上げる。真剣な表情のままの朔羅と違い、甘寧はその声にニヤリと笑って応えていた。
「こんなもんか」
 呟いた甘寧は、ちらりと瞳に真剣な光をみなぎらせると、いままでも素早かった剣のさばきをさらに早め、すっと剣を突き出した。
「!」
 朔羅の額の目の前で、それはピタリと止まる。
 まあ、朔羅が凌統の部隊の5番目までに入る実力とはいえ、呉の武将の一人である甘寧の実力とは、雲泥の差があった。当然と言えば、当然の結果。
「あ、ありがとうございましたっ!」
 息の上がっている朔羅が勢い良く頭を下げる。対して、全く息をあげることもない甘寧は、楽しそうに笑いながら、剣の峰で肩を軽く叩きながら応えた。
「いーってことよ。俺も思ったより楽しんだしな」
「いえ、本当に勉強になりました!」
 真実嬉しそうに瞳をキラキラ輝かせる朔羅を、甘寧は興味深そうに覗きこむ。
「おまえさ」
「?」
「筋がいいよな。気に入ったぜ。文官じゃもったいねーから、俺の部隊に来ねぇか?」
「え?」
 思わずぽかんとしてしまった朔羅の頭を、甘寧がぽんぽんと軽く叩く。
「ああ、別に今すぐどうこうってわけじゃねーから。またな」
 踵を返し、ひらひらと手をふる甘寧を呆然と見送る。
「やろーども!飲み直すぜ!」
「へい!」
 あまりに突然のことで、その後の甘寧の言葉が耳に入っていなかった朔羅は、物陰からその様子をじっと見つめる凌統の姿に、当然のことながら気づかないでいた。


「そんな顔でいるなら、今日はもう終わりにするぞ、凌統」
 その声に、凌統はビクリと肩を揺らした。
 呂蒙の執務室で、北東の砦の防衛について話していた時だった。的確な意見を述べつつ、至極普通に打ち合わせは進んでいたと思っていたのだが…。
「は…。何のことですかい?呂蒙殿」
 いつもの人を食った表情を貼り付けて、凌統は笑ってみせる。
 その反応を見て、呂蒙は『はぁ』とため息をついた。
「昨日のことか」
「ですから、何の話かと」
「朔羅のことだろう」
 ドキリとした。ポーカーフェイスの凌統が、慎重に隠してきたのだ。誰も勘付いていないと思っていた。
「俺が気づかないとでも思っていたのか?」
 そんな心情を見透かしているのか、呂蒙が寸分違わない言葉を発す。一方の凌統は、貼り付けた笑顔が強張ったまま。
「…何の、ことですか?」
「大方、甘寧が朔羅を部隊に誘ったことでも気にかけているのだろう」
「!」
 次々と言い当てられる言葉に、凌統は呂蒙の顔を見られなくなっていった。自然、俯く。
「凌統、おまえ、朔羅をどうするつもりだ?このままでは、朔羅の体がもたんぞ」
「分かって、…いますよ」
「分かっているとは思えん行動をしているように思えるがな。結局、おまえは朔羅をどうしたいのだ」
 どうしたい?
 その疑問に、『命の危険がないところにいさせたい』と、凌統は心の中ですんなりと応えを出した。けれど、その思いは実らない。朔羅自身が『嫌だ』と跳ね除けるからだ。
「どうも…。どうせ、あいつが人の話聞く奴じゃないって、呂蒙殿もご存知でしょう?」
「まあ、そうだな」
 呂蒙は、そう言って苦笑する。
 呂蒙も、武術の才のある朔羅のことは、他の武人と同じく見知っている。瞳が見せる強い意志は、簡単には曲げられないだろう。
「そんな、人の話を聞かない部下を、無理矢理『文官』に押し込めて、破綻しないわけがなかろう。それは、分かっているのだろう?」
「…」
 沈黙が肯定する。
「いっそのこと、甘寧の部隊に配することも、選択としてはありだと思うがな。一度離れた方が、冷静な判断もできるというものだろう」
「……はい」
 それは、凌統も考えていた。
 このままでは、朔羅を追い詰めてしまう。さらに、朔羅の実力も殺してしまう。それなら、いっそ。
「考えてみます」
「そうか」
 短い問答は、それで終わりを見せる。
 その後は、つつがなく打ち合わせが進むこととなった。


 久しぶりに呼び出された凌統の執務室で、朔羅は首を傾げた。凌統の顔色が良くない気がする。
「凌統様?体調でも悪いのですか?顔色が…」
「別に悪くないから、心配しなくていいよ」
 やんわりとした笑顔だったが、朔羅にははっきりとした拒絶に思えた。
「あんたを呼んだのは、他でもない。仕官の話さ」
「仕官?」
 朔羅が仕官しているのは、他ならぬ凌統であるわけなのだが?なぜ、それを当人が話すのだろう。朔羅は頭に疑問符を浮かべた。
 凌統が、一呼吸置くのが分かる。机について座っていた凌統は、机の前に佇んでいる朔羅に向けて、意を決したように顔を上げた。
「あんた、甘寧に仕官するつもりはない?」
「は?」
 思わず、間抜けな声を出してしまった。
「何の冗談ですか?私は、凌統様に仕えているんですが」
「だから、さ。それを甘寧に変えてみないか、って話」
 父親の仇である甘寧とのわだかまりが、消えたわけではない。凌統は『甘寧』という名を発する時に、苦々しく顔を歪めることを隠せないままだ。
 だからこそ、意味がある。気に入らない甘寧の部隊に朔羅が入れば、自ずと凌統は距離を置くことだろう。会うこともほぼなくなってくる。
「なぜ…」
 朔羅の声は震えていた。凌統は、それに気づきながらも、知らないふりをしたまま、貼り付けた笑顔を保ったまま。
「あんた、武官になりたかったんだろ?毎日、鍛錬を欠かさないみたいだし。だから、甘寧の部隊で武官に戻るってワケ」
「なぜ、それが凌統様の部隊ではいけないのですか!?」
「あんたの実力が発揮できるのは、甘寧の部隊だからってこと」
「そんなの…、納得できません!」
「あんたが納得しようとしまいと、俺には関係ないんでね。ま、そういうことで」
 そう言い終えると、凌統は椅子に横に座り、窓を眺めた。無言の「退出しろ」との命令に、朔羅は呆然としたまま無意識に礼をして、足取り重く退出していく。
 小さく扉の閉まる音を背後に聞き、凌統は頬杖をついて何を見るわけでもなく窓の外を眺めていた。
 そろそろ、硬いつぼみは花開こうとしている。


「うおーい。凌統はいるか?」
「いるかも何も、もう目の前にいるだろ」
「ノックだよ、ノック」
「部屋に入ってから言うセリフじゃないっての」
 刺々しい言い合いに、やっぱりコイツとは合わねぇ、と2人とも思ったわけで。
「で、何の話?」
「朔羅だよ」
 凌統はドキリとするが、表情にはおくびにも出さない。甘寧に気づかれるわけにはいかなかった。
「おまえ、朔羅に何て言ったんだよ。…って、まあ、それはどうでもいいか。そうじゃなくてな。さっき、朔羅が俺んとこ直々に挨拶しに来たんだけどよ」
 凌統の机に座りこみ、呆れたように凌統を見下ろす。苦々しく睨み返す凌統に、鋭い瞳のまま甘寧は続けた。
「俺んとこに仕官する気はないってよ」
「…え?」
 凌統は、目を見開く。
 事の顛末は、こうだった。
 甘寧の執務室に訪れた朔羅は、言いにくそうに、だがしかしはっきりと、甘寧にこう告げた。
「申し訳ありません。私は、甘寧様にお仕えすることができません。凌統様に恩義をお返しせぬまま、甘寧様にお仕えすることはできないのです」
 どうしてそんな強固な決意が現れたのかは知らない。けれど、朔羅の瞳には有無を言わさぬ強さがあった。甘寧が口を挟む隙間など、到底ないと思われた。
「俺に恥かかすつもりか?」
 甘寧は、凌統を睨み返した。しかし、凌統の瞳からは、力が失せている。
「別に、そんなつもりは…」
「凌統様ー!」
 言い返そうとしたところ、扉の外から、数人の野太い声がかけられた。
「じゃ、そーいうわけで。大事な部下サンは、てめーんとこに返すわ」
 じゃあな、と軽く手を振って、机から飛び降りた甘寧はどかどかと退出していく。入れ違いに執務室へ入ってきた凌統の部下達は、先客の甘寧の姿にぎょっとして、慌てて頭を下げる。凌統の執務室に、元々執務嫌いで自分の執務室さえ寄り付かない甘寧とは、真夏に雪ほどのあり得ない組み合わせだった。
 甘寧が完全に姿を消すのを認めてから、部下達は口々に声を上げる。
「凌統様、いい加減にしてくだせぇや」
「一体何の話?」
「とぼけねえでください。朔羅のことですよ」
「!」
 ぴくり、と眉を上げる。
「軍規に違反して野営地を離れた咎だって、文官で十分頑張った朔羅だったら、もう許されていいはずですぜ」
 そういえば、部下達には、その咎で文官を命じたと言い渡してあったことを思い出す。
「そうですぜ、凌統様。あいつがいるといないんじゃ、士気に関わる」
「なんだ。あんたらは、女一人いないくらいで、士気が落ちるって言うのかい?」
「あーもう!そういう意味じゃねえって!」
 なかなか上手く表現できない部下は、自分の語彙力のなさに地団太を踏む。そして、知らずに凌統の地雷を踏んでいった。
「凌統様だって、朔羅がいなかったら覇気が失せてるじゃねえですか」
「は?」
 凌統の視線が鋭く尖る。
 鈍い部下達は、それに気づかぬまま、言葉を続けた。
「朔羅は、女だからって、弱いわけじゃない。それどころか、頼りになるやつだ」
「あいつの観察力は凄いんでさ。自分の相手じゃないのに、周りで戦ってる俺達に声をかけて、敵の動きを知らせてくるし」
「人一倍努力する奴なんで、女のあいつに負けないように、鍛錬に励む奴も多いしな」
「そうはいっても、とりあえずは女だから、手当てしてもらいたがる奴も多いわなぁ」
「『とりあえず』って何だよ」
 「だってなぁ」と、部下達は豪快に笑いあう。外傷用の薬と間違えて、腹痛の薬を塗りつけたとか。行軍中に、珍しい鳥を見つけたと言い余所見をしていたら、ぬかるみにハマってすっころんで泥だらけになったとか。
 どうやら、そんな笑い話を聞いていると、朔羅は仲間達に愛されているようだった。
「随分と気に入られてるワケだ」
 地雷を踏まれて、冷たい声音のままの凌統だったが、豪快な男達はまったくもって気づかない。
「そりゃ、そうですぜ。あいつは、俺達にとっちゃいなくちゃならねぇ仲間ですから」
「仲間…」
 凌統の中で、何かがコトリと小さく音をたてて動いた。
「ええ、かけがいのない仲間って言うんですかねぇ。あいつだったら、安心して背中を任せられるんでさ」
「守ってやるんじゃないのかい」
「はぁ?何言ってるんでさ、凌統様。凌統様だって言ってたじゃねぇですか。『朔羅になら、背中を任せられる』って」
 そんなこと、すっかり忘れていた。
 朔羅は女性で、守るべき対象で、朔羅から守られる謂れはない、と。いつのまにか、それが凌統の中に確固としてあった。
 なぜ?
 いつから?
「朔羅は、俺達の大事な仲間なんでさ。そんな仲間と、共に戦いたい。そう思っちゃだめですかい?凌統様」
 その言葉に、凌統は応えることができなかった。
 彼らと凌統には、明らかな違いがあったから。決して交わることのない思いの違いが。
 そうして、やっと気づく。
 ああ、そうだったのか―――。


「孫策様、ちょっとおうかがいしたいことがあるんですけど」
 そう言って、かの武将は孫策の執務室を訪れていた。寝屋ではないので、部屋に孫策の妻の姿はない。2人の姿が、窓際の月が望める場所にしつらえた膳をはさんで向かい合っていた。
 凌統の雰囲気を察したのか、膳の上には口を滑らかにするために、酒と肴が並んでいる。普段は鈍い孫策だが、こういった人の気持ちの機微には、なぜこんなにも鋭いのだろうと思う。
 穏やかな月夜だった。柔らかな月の光に照らされて、孫策と凌統は酒を酌み交わし、とりとめのないことを話していた。
 そして、しばらくした頃、何かの拍子に沈黙が落ちた時、凌統が重く口を開いた。いつも軽口を叩く凌統にしては珍しく、その声は低く沈んでいる。
「孫策様。大喬様を、なぜ戦場に連れていくんですかい?」
 孫策が、大喬を大切に思っていることなど、聞くまでもなく凌統は知っている。孫策と大喬がお互いを見る時の優しい瞳を見ていれば、自ずと分かるというものだ。だから、その思いを再度確認することを、凌統はあえてしなかった。
「うーん、そうだなぁ。本当は、戦場になんか連れて行きたくないんだけどな。でも、前にこんなことがあって…」
 そう言って、孫策は、しばらく前に大喬が孫策を思って別行動をし、窮地に陥ったことを話した。
「あん時は、結局最後に射掛けられた弓矢から大喬を守って、俺の方が死にはぐったんだけどな」
 はははと、呉の大将は笑う。
 オイオイオイオイ、そりゃ笑い話じゃないっての。
 凌統は青ざめた表情をしたが、孫策はまったく気づかないようだった。
「でも、原因は俺だったんだ。俺が斬った相手を大事に思う奴がいてな。仇を討とうって、俺を狙ってきたわけなんだが。それになぜだか大喬が気づいて、ってことなんだよ。だから、大喬が傷つけられるのは違うと思ったんだよな」
 口下手なりに、懸命に言葉を探して凌統に聞かせる。本当に、この人は身内に甘く、優しく、真っ直ぐだ。その姿は、いかつい孫策と似つくはずもない朔羅の姿に重なった。
「でもな。もちろん周瑜とか陸遜とかに怒られたのは確かなんだけど、大喬に泣かれてな」
 ズキリ、と胸を突き刺す痛みがあった。
「あれにはこたえたなぁ。だからさ。隣で戦うことに決めたんだよ。お互いが目に入る場所で戦ってれば、いらぬ心配で気が散ることもないからな」
 隣で戦っていれば、見えないところで窮地に陥ることはない。危機が迫れば、助けることもできる、と。
「でも!」
 凌統は、納得しようとして、首を振った。
「それでも相手が倒れたら、どうするんですか!」
 脳裏に浮かんだのは、凌統をかばってぎこちない笑みを見せた朔羅。森の中、一歩も動けなくなって倒れかけた朔羅。
 いつになく必死な凌統の調子に、多少面食らった孫策だったが、やがて穏やかな笑みを見せた。
「そうだな。戦場だからなぁ。そういう可能性はあるだろうな」
「だったら…」
「でも、離れたところで倒れられるよりはマシだと思う」
 きっぱりと、孫策はそう言った。
 相手の姿が見えないことで、いらぬ不安を膨らませることは、心底嫌だと思う。姿を消した大喬が弓矢に狙われた時は、本当に心臓が冷えた。
 そんな思いをするなら…。
「それにな。相手が倒れないよう、守れるよう、強くなるほかないんだ、と俺は思うぜ」
 だから、強くなれる、と。強くなるしかない、と。
 それでも守れなかった時は……。
 その事実を、凌統は見たくなかっただけだった、見る勇気がなかっただけだった。覚悟が足りなかったとも言える。
 弱い自分。強くなる資格もない自分。
 情けない自分が目の前に垂れ下がっていて、いつも目を逸らしていた。
 ただ、それだけだった。
 酒盃を持ったままうなだれた凌統の肩に、孫策は優しく手を置いた。
 凌統は、泣いているかもしれなかった。


 翌朝、朔羅の武官復帰が言い渡された。
 凌統の部隊の者は、一人残らず朔羅の帰還に喜び、まだ朝だというのに夜の歓迎の宴を楽しみにする言葉があちこちから上がった。
 朔羅に群がる部隊の者を遠くから眺めつつ、これで良かったのかと自問し、凌統はその場を去った。きっと、今後、自らにとって戦場は、文字通りの戦場となるのだろう、と。そんな予感を抱えながら。
 執務室から見える庭木には、いつのまにか白い花が咲いていた。


to be continued



凌統が、凌統らしく書けない…!
やっぱり、飄々としてるキャラを主人公にして書くべきではない…。
「父上ーーー!」的な胡散臭さが否めない。
(それは、「父上ーーー!」が胡散臭いと言うのか(笑))

史実だと、この時すでに、孫策はいないわけですけどね。
私が好きなのは、無双の孫策なんだから、いいんだ!(言い切った!)


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