清算の選択

 多分、許されない。
 きっと、許されるには、気の遠くなるような努力と時間が必要なのだ。

「おまえ、どうするんだ?」
 とりあえずのところ、連邦とザフトに停戦が結ばれた後、ディアッカはイザークをアークエンジェルに呼び寄せていた。デュエルも無事ではなかったし、それ以上に、話したいことがあったからだ。
 これからのこと。
 今の自分の立場。
 アークエンジェルを、体を張って守ったディアッカの言葉ではあったが、イザークの搭乗許可を出したマリューの表情は硬かった。
 ・・・歓迎されるはずがない。
 それは、分かっていたことだった。
 多分、キラがアークエンジェルに乗っていたら、極力イザークには会わないようにするだろう。例え、サイクロプスから救った命であっても。
 アークエンジェルから降りた民間船を、撃ち抜いた光景は、目から焼きついて離れない。彼らからは。
 その船には、年端も行かない女の子も乗っていたと聞く。
 ああ、俺達が撃ち落とした艦や機体には、そんな誰かの大切な人が乗っていたのだ。
 トール。
 顔も分からぬ少年の名が思い出されて、ディアッカはほんの少し顔をしかめた。
「どうするとは、どういう意味だ」
 見事な銀髪をした少年は、不機嫌そうに応える。
「これから、だよ」
「ザフトに戻る」
 即答だった。そこに、何の逡巡もない。そう応えることは、ディアッカにも分かっていたことだった。だから、用意していた情報がある。
「おまえ、ただで帰れると思ってるのか?」
「どういう意味だ?」
「・・・ジュール評議員、おまえの母親だよ」
「?」
 ああ、やっぱり。こいつはまだ、知らない。



「今、ジュール評議員は、穏健派に拘束されてる」
「!」
 ディアッカもさすがに、こんな状態で冗談を言えるほど、無神経ではない。悪友とはいえ、そのくらいはイザークだって知っている。
「それは・・・、どういう・・・」
 声がうわずっていた。ま、当然だろう。
「さっき、親父に連絡を取った。間違いない情報さ。知ってると思うが、ザラ議長は殺されたらしいからな。標的はおまえの母親に移ったわけだ」
「そんな、・・・他人事のように言うな!!」
「・・・」
「オレは帰る!」
「まあ、待てよ」
 いきりたって、そのまま踵を返そうとしたイザークの腕を、冷静にディアッカは掴んだ。
「とりあえず、デュエルの補給はしなきゃいけないだろ。今、整備のおっさん達に頼んであるから、まずは、待てよ」
「待ってなどいられるか!!・・・母上がっ!!」
「オレも、ザフトに戻る」
「!?」
 驚いたように、イザークが振り返ってディアッカの顔を見つめた。
「・・・しかし、・・・いいのか?」
「ああ、もう決めた」
 イザークも馬鹿ではない。ディアッカがアークエンジェルにいる理由は、なんとなく分かっていた。でも、それでいいのか?
 豆鉄砲をくらったようなイザークの顔を見て、いつもの皮肉屋の表情が戻る。口の端に、人を食ったような笑みが浮かぶ。
「別に〜。親に顔くらい見せようかな、って思ってるだけだって」
「・・・」
 イザークは、少し俯くと、急に押し黙った。
 急に怒ったり、黙ったり、相変わらず忙しい奴だなあ。
 そんなことを、ディアッカは笑いながら思う。
「ま、アークエンジェルが立ち直ってからだけどな。この船、今のままじゃ地球にたどり着く前に機能停止しそうだし?」
 はははと、軽く笑う。「ぷすん」という音をたてて、アークエンジェルが止まるさまを想像したからだ。そんな、マンガのような話も、今のアークエンジェルにはジョークで済まなくなっている。
「・・・ない」
「え?」
「すまない・・・」
 言いにくそうに、イザークは繰り返した。久々と言おうか、初めてと言おうか。彼の感謝する姿など、滅多にお目にかかれない。
 ディアッカは、ニヤリと笑った。
「オレも、ザフトじゃMIAだったろうし?バスターもあんなんじゃ、オレがおまえに迷惑かけるかもしれないしなァ。しかも、元々の敵、アークエンジェルに乗ってたときたもんだ。お尋ね者かもね、オレ」
「知るか。おまえでなんとかしろ」
 顔を上げたイザークは、いつもの調子に既に戻っていた。
「ああ、言われなくても」
 不敵に笑う。余裕があるように見えるかもしれないが、先行きは暗い。それは、分かっていた。
 自分のできること。自分のすべきこと。
 自分のこの手は、赤子のように純粋ではないから。
 それを、見てきたから。
 きっと、それを忘れなければ、先に進めるんだろう。そして、忘れない。忘れられない。

 ディアッカとイザークは、拳をこつんと当てると、何も言わず目を合わせた。
 通路の向こうから、デュエルの整備が終わったことを告げる者がいた。


END




誘惑に弱いカジです・・・。
衝動的に、ss書きたいって思ったら書いちゃいました・・・。
もう、これで冬コミ終わるまでは書きません!書いちゃだめだ!自分!!

ディアッカとイザークでした。
外見は軽いディアッカでも、ミリちゃんに会ってからは、中身はちゃんと考える人に変わったんでは?という観点からです。
ディアッカがザフトに帰るのでは?という考えは、いろいろと真面目に考えたら出てきたものです。
多分、これについては、人それぞれ意見が違うと思うので、もちろん強制などはしません。(こうなるはずなんだ〜!とか)

次は、ディアミリです。
そして、その次が、えぐいアレ、書きます・・・。
あ、とりあえずは、後でこの挿絵ラクガキ塗ろうかと・・・。


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