思い遥か


caution!
このssは、ほんのちょっぴり(笑)性的表現が含まれます。
15歳以下の方は、お読みにならないでください。
よろしくお願いいたします。




 腹が立つ。
「ああっ、くそっ!」
 むしゃくしゃしたまま、手にしていたドライバーを投げ捨てた。小指の爪ほどのネジが、あぐらをかく足元に転がる。もう、何度目かも分からない、その小さなネジを指で摘みあげることでさえ、苛立ちを募らせる。
 ああ、まったく腹が立つ。
 イライラと、頭をかいた。元々広がりやすいくせっ毛の金髪は、くしゃくしゃと、寝起きのような状態にくずれる。人前に出るときは、隙のないきちんとした格好をするオレには、とても珍しい光景だろう。
 誰もがそうだろうが、人に弱味を見せたくない。オレには、その思いが人一倍強いのだと、最近思う。
 転がったドライバーを、憎々しげに睨む。ドライバーにとっては、いいとばっちりだろう。そうはいっても、ドライバーを拾うには、かなりの忍耐が必要だった。
 ふー。
 長いため息をつき、米粒のようなネジをつまみ上げると、ドライバーの先にひっかけて、端末の組み立てを再開する。
 自然に、眉間にしわが寄っていたらしい。
「欲求不満か」
 呆れたような声が隣からもれた。
 内心、あまりに核心をついていてギクリとしたのを押し隠し、ひきつった笑みを浮かべる。
「はぁ?そんなわけないでしょ。どういう意味だよ」
「どういう意味も何もない。そんなこと、すぐに想像がつくだけだ。昨日の夜は、あまりかんばしくなかったようだな、ディアッカ」
 まるで汚れたものでも見るかのような目で、悪友は言った。
 耳を疑う。
 恋愛感情の機微など、こいつが知る由もないと思っていた。ミゲルならまだしも。
 オレの周りで、女遊びに理解があったのは、ミゲルくらいだ。アスランは女よりも機械に興味があったような変人だし、ニコルにいたっては問題外である。ラスティはああ見えて、遊びで恋愛はするもんじゃない、というような古風な人間だったから、ラスティの前で「女遊び」は禁句だった。隣で同じ作業をしている悪友、イザークにしても、女関係のことを話したところで、「そんなくだらないこと」と言われるのは分かっていた。
 ミゲルのいない今、オレが女関係について口に出すことはなくなっていた。今も、然り。こちらから、話をふったわけではない。
 だから、更に驚いた。
「おまえから、そんなこと言われる日が来るとは思わなかったな」
「どういう意味だ」
 怒りっぽい彼が、相も変わらずふくれっつらを見せる。
「んー。そのままの意味だけどね」
 格納庫で2人、作業用モビルスーツの調整をしていた。昼あたりから始めたが、既に外は夕闇が覆っている。それなりにスペックの良いメンテナンス端末のはずなのだが、処理を待っている時間がもったいないので、2台目のメンテナンス端末を組み立てていたところだった。
 開発が進んで、それぞれの部品がコンパクトになっていくのは、いいことだと思う。が、直接指で触る部品が、指で摘むのに苦労する大きさというのはどうかと思った。
 まあ、この作業をする前までは、そんなこと、気にも留めなかったのだが。
 ふと目をやると、イザークが妙に時計を気にしている。端末にも時計が表示されているというのに、さっきも格納庫の時計を見上げていた。
 …これは、
「女か」
「なっ!そんなわけないだろう!」
 どんぴしゃ。
 本当に、コイツは分かりやすい性格だ。こんな調子で、隠し事ができるのだろうか。
「オレは別に『女か』って言っただけで、何も聞いてないけど?『そんなわけ』って、どういう意味サ?」
「…!…ディアッカ!貴様…!」
「あー、シホはモテるだろうしなあ。いくら隊長の特権あっても、下手すりゃ逃げられるから、がんばれよ」
「シホは関係ない!」
 あ、やっぱり。
 薄々気づいていたが、やっぱり相手はシホか。カマをかけただけなのに、見事にひっかかるなんて、単純なことこの上ない。
 だからか。
 だから、オレの苛立ちにも気づいたわけか。気づかれるようなヘマはしていないと思っていたが。恋愛感情に疎いイザークに気づかれるなんて、相当切羽詰っていたのだろうか。 …情けない。
 オレは、肩をがっくりと落とした。
「どうかしたのか?」
 相手を気遣うなんて、めずらしいことだ。これも、シホと付き合い始めた所為だろうか。
「何でもない」
「なんだか知らんが、日頃の行いの悪い所為だぞ」
「おまえに言われると、本当にショックだね」
「どういう意味だ」
 イザークは肩をいからせ、憤慨する。
「おまえのように、女癖は悪くない」
「ハイハイ。どうせオレは手癖が悪いですよ」
「たまには、自分の行動を省みるんだな」
 ざまあみろ、という風に、イザークは胸を張る。いまいちいい切り返しが見つからないので、さっさと話題を変えた。
「それより、いいのか?時間は。女を待たせるのは、褒められたことじゃないぜ?」
「!」
 イザークは、ちらりと時計を見上げ、顔色を変えた。
「ディアッカ!オレは先に帰る!続きは明日だ!」
 その場に散らばった工具もそのままに、イザークは立ち上がる。
「ハイハイ。分かったけど、ちゃんと着替えて行けよ?」
「!」
 言われて初めて気づいたのか、イザークは作業用のつなぎを着ている自分の姿を見下ろした。
「そんなこと、分かってる!」
 捨て台詞を残し、イザークはあたふたと格納庫を走り出て行った。その後姿があまりに必死で、オレは思わず吹き出していた。
「かわいい恋愛だねェ」
 …オレも人のことは言えないけど。
 頬杖をついて、イザークが出て行った格納庫の出口をぼんやり見つめる。改めて思うが…。
 昨日は最悪だった。
 オレも男だ。ご無沙汰になっていりゃあ、鬱憤も溜まる。それに、自分でどうこうするのは、オレのポリシーに反した。
 以前遊んだ女に連絡をとったまでは良かった。
 その女を抱けば抱くほど、頭は冷えていって、脳を侵食してくものがあった。
「ディアッカ、来て…」
 魅惑的な声が誘う。普段なら、背筋にゾクリと来たものだ。が、今は違う。何の感慨もなかった。
 反対に、そんなオレに、オレ自身が驚いていた。混乱する。オレは、女を抱きたかったはずだ。なのに、なんでだ?
 女は、殆ど機械的に動いていたオレの手に、喜びの声を上げる。
「もっと…。もっと、ディアッカ…」
 違う。
 違う、そうじゃない。オレが望んでいたのは、こうじゃない。
 頭のどこかで、別のオレが遠く叫んでいた。
 女は、嬉しそうに愉悦の表情を浮かべる。
 違う。もっと恥ずかしがって、顔を背けるはずだ。
 女は、誘うようにあっさりと股を開く。
 …違う。オレがもっと頼まないと、許してくれないはずだ。
 脳を侵食する自分の思いに、訳が分からなくなった。
 ふと見た女の顔に、何かがだぶった。見間違いかと瞬きをすると、そこに初めて像を結ぶ顔があった。
 …そうだったのか。
 オレが抱きたい女は、この女じゃない。自覚してしまうと、その後は最悪だった。
 女の顔には、オレの望む女の顔がだぶり、その誘うような女の行動は、オレの望む女とはかけ離れている。自ら望んだこととはいえ、自覚してしまったオレには、十分な責苦だった。
「いつのまに…」
 こんなにまいっていたのか。
 ふと、呟きが漏れた。静まり返った格納庫で、オレの声を聞く者はいない。
 参った。
 もう、これ以降は、遊びで女は抱けないということか?かといって、思う女は遥か遠い。場所が遠いのではない。立場や環境、全てが遠いのだ。その距離を埋める努力は、オレなりにしているつもりだ。けれど、期限が決まっているわけではない。明日はどうなるか分からない毎日が続く。
「地球、行っちゃおうかなァ」
 言ってはみたものの、危険を冒して行ったところで、拒絶されたら終わりだ。
 …と、拒絶されることを考えてるオレが信じられなかった。いつのまに、そんなセンチになったんだか。
「ああっ、くそっ!」
 今日、何度言ったか分からないセリフを吐き捨てて、オレはキーボードを叩き始めた。
「…あそこのコロニーのサーバは地球側にも繋がってるはず…。…で、そのまま行くと、あそこで地球に向かう回線はシャットアウトされるから、こっち経由して…」
 ぶつぶつと呟きながら、ネットワークを構築する。停戦中の今、プラントと地球を繋ぐ回線は、政府機関が管理している。まっとうな連絡方法は、ない。今やっている行為は、完全にハッキング行為だ。まあ、ばれるような馬鹿なことはしないが。
「できた」
 我ながら完璧な仕事に満足すると、果たしてその後どうするか迷う。
 ガラじゃないが。
「メールでも書くか…」
 「お元気ですか?」という、思い浮かんだ言葉を頭を振り払って消すと、
「あくまで話口調で」
と、自分に言い聞かす。
 …まったく、本当にお子様な恋愛だよ…。
 オレは、イザークのことを笑えない自分にため息をついた。

「どうかした?」
 声をかけられ、振り向いたミリアリアは、静かに首を振った。
「ううん、何でもない。いい天気だな、って」
「…元気に頑張ってると思うよ?」
 確かに、青い空が頭上に広がっているけれど。ミリアリアがその先に見たものに、サイは気づいていた。
「結構、みんなが思っているより真面目だから」
 優しく微笑むサイに、ミリアリアは目を丸くする。そして、ふっと微笑み返した。
「そうね」
 青く広がる空。その向こうに宇宙があって、そこにはプラントがあった。今を生きる同胞の。
 ミリアリアは、もう一度その空を見上げると、先を行くサイを追った。


END




初めて年齢制限ものを書きました・・・。
まあ、別に行為の中身自体は書いていないんで、15歳以下の方が読まれても大丈夫っちゃ大丈夫なんですが。
なんというか、精神衛生上良くない気がしたので。(笑)

ディアッカって、二次創作ではいろんな方が、次から次へと違う女、といいう感じで書かれている気がするのですが、(偏見か?(笑))
結構普通に、エロなだけと思います。
今までの女性経験は、片手だと足らないけど、両手まではいかないなあ、というイメージです。
んで、やっぱり、初めて大事にしたい女ができて・・・、
・・・って、夢を見てます。相変わらずの阿呆です、カジケン・・・。


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