安息の時

「ディアッカ?いる?」
 ぽそり。
 この硬い扉越しに、聞こえるはずもない。
 停戦協定が結ばれ、クライン派の手配によって、プラントで補給を受けているアークエンジェルは、しばしの休息を得ていた。
 やっと得た休息。その安眠であろう眠りを妨げたくはなかった。が、ボロボロになったアークエンジェルの整備を続ける整備班も、ロクな睡眠をとっていない。
 ただ、そこには戦いの最中のような、闇を迷走しているような不安感がないだけ、彼らの表情は明るかった。
 その彼らが、コーディネーターであるディアッカの手を借りたいと申し出たのだ。負傷もしており、戦闘で疲れているであろうディアッカを起こすのはためらわれたが、皆疲れているのは同じだろう。キラ達もエターナルの整備に追われている。
 ミリアリアは、その申し出を受け、ディアッカの部屋に向かった。
 当然閉まっていると思っていた扉は、シュンという小さな音を立てて、あっさりと開いた。
(何?鍵閉めてないの?アイツ)
 その無用心さに呆れる。・・・が、それも彼らしく思えた。
 部屋は、灯りが消され、ほの暗い。
 暗闇に慣れてきた目は、ベッドに横たわっている少年を見つけた。臨戦態勢が解かれた今は、Tシャツにスウェットパンツという、実にラフな格好をしている。
 ディアッカは、気持ちよさそうに寝息を立てている。その無邪気な寝顔が、いつもの皮肉屋とはかけ離れていて、思わずミリアリアはぷっと吹き出した。
 そっとベッドに歩み寄る。ディアッカは、相変わらず起きる様子がない。熟睡、しているのだろうか。
 そんな様子を見て、自分が安眠を途切れさせることに、再びためらいを覚える。
(あ、睫毛、長いなあ)
 声をかけるのを躊躇したまま、ミリアリアはディアッカの寝顔を眺めていた。ミリアリアが直した包帯が、額に痛々しい。寝ている間にずれたのか、少し曲がっていた。
(ふーん、結構キレイな顔してたんだ、コイツ)
 少し大人びた、精悍と言えなくもないその骨ばった顔の輪郭を追う。
 そんなとき、ふいに無造作に後ろに追いやられていた前髪が額に下りた。ふわふわとしたウェーブのかかった金髪が邪魔なのか、ディアッカは少しだけ顔をしかめる。
(邪魔、なのかな?)
 そっと手を伸ばす。ただ、その前髪を額からどけるだけだった。ミリアリアのしようとしていたことは。



 が。
 その金髪に触れる直前、空気が動いた。
「誰だ」
 低い、声。
 どうして気づいたのか、ディアッカの手がミリアリアの伸ばした手を掴んでいる。
「きゃ」
「・・・?ミリアリア・・・?」
 聞き覚えのある声音と、闇に浮かぶ顔を認め、冷たい眼光が宿っていた紫の瞳が柔らぐ。
「・・・どうか、した?」
 ディアッカは、体の緊張を解いた。敵じゃない。オレの命を脅かす存在じゃない。
 自分に触れようとしていた手を、咄嗟に掴んだ。その無意識の行動が、軍人が自分に染み付いていると知って、苦笑する。
 その相手がミリアリアであることに、安心し、そして深い眠りにいたことが突然思い出された。強烈な眠気が襲う。
「あのね。ディアッカに手伝ってもらいたいことがあるんだって。整備の皆が」
「ああ・・・そう・・・」
「ごめんね。疲れているのに・・・」
「・・・」
 再び眠りに落ちそうになりながら、無理やり瞼を開けて、ミリアリアを視界に入れる。
「・・・あのさ」
「何?」
「キスしてくれたら、・・・起きよっかなぁ・・・」
「!!」
 ミリアリアの顔が、闇の中でも分かるほど、紅くなったのが分かった。
(かわいいなぁ)
 ぼんやりと思いつつ、こみ上げてきた笑いを堪える。
「良くあるじゃない?王子様にお姫様がキスして起きるってやつ・・・」
 寝ぼけながら続けると、抗えなくなった瞼の重みに瞳を閉じる。
「ばっかじゃないの!?」
 ミリアリアは、すっくと立ち上がった。
 相変わらずの声に、ディアッカは瞳を閉じながら笑う。
「・・・キスしてくれたら、・・・すぐに起きるの・・・に・・・」
「ちょ・・・、ディアッカ。本当に寝ちゃうの?」
「・・・」
「ディアッカ?」
「・・・」
 ミリアリアの問いかけに、先刻聞いた寝息が応えるばかりだ。ミリアリアは、その寝顔を見下ろしながら、半分呆れ、立ち尽くしていた。
 そんなディアッカに、振り落ちるものがある。額の包帯のあたり。柔らかい感触があった。
「!」
 一瞬にして、目が覚める。ディアッカは、目を見開いて、飛び起きた。
「ミリアリア!・・・今・・・!?」
「・・・なあに?先、行ってるわよ?包帯、後で直してあげる」
 すました顔で、ミリアリアは部屋を出て行く。
 ディアッカは、感触のあった包帯の辺りを指でなぞりながら、ミリアリアの出て行った扉をしばらく眺めていた。



END



寝てるディアッカが、ミリアリアの手を掴む、ってのがやりたかったのです。
・・・なぜと言われても、分かりませんが。(笑)
寝起きのディアッカは、絶対エロフェロモン垂れ流しかと。(笑)私のラクガキじゃ、全然表現できてませんが。

それにしても。
ミリちゃんは、本当にデにちゅーしたんでしょうか?(自分で言うな。・・・というか、自分でもどっちか分からず(笑))でも額だけど。しかも、包帯の上。
それが、指を押し当てただけっていったら、結構笑います。
でも、それもアリと思っている私は、ディアッカ好き失格でしょうか?(笑)


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