背後の喪失

「いやー。オレってホント運がいいよなァ。あんな状態で無事帰ってこれるなんてな。イザークのお陰でもあるけどな」
 停戦協定が結ばれ、とりあえずの休息を得たアークエンジェルの医務室で、ディアッカはミリアリアに額に巻かれた包帯を直してもらっていた。
「・・・」
 ミリアリアはうつむいたまま黙っている。
「?どうかした?」
「・・・で、そんな・・・」
「何?」
「なんで、そんなこと言うのよ!」
「うわ」
 思わず声が漏れた。彼女の頬は涙に濡れている。
 何度見ても慣れないと思うのは、ザフトでは例え女であっても、軍人はたやすく涙を見せなかったからだろうか。ザフトにいた頃は、女の涙など、見たことがない。周囲にいたのは、親が死のうとも眉ひとつ動かさないような、そんな雰囲気の女ばかりだった。
 それで、なのか。あるいは、彼女の涙だから、なのか。自分では分からなかったが。
 ただ、確かに、初めて会ったときにからかったような、そんな気持ちは今の自分に微塵もないことは確信を持てる。
 反対に、その涙の思いは、尊いものと思えていた。彼女に会ってからは。
 まあ、だが、しかし・・・。
「オイオイ。何も泣くこたねェんじゃないの?」
「たくさんの人が死んだのよ!?もう・・・誰にも死んで欲しくなかったのに!!」
「!」
 息を飲む。
 フラッシュバックする記憶。
 彼女の大切な人、トールは死んだ。
 彼女の友達であったフレイという女も、元アークエンジェルの副艦長も、エンデュミオンの鷹と呼ばれた男も。
 実際、自分も生きて帰れるとは思っていなかった。彼女に「気をつけて」と声をかけられたときも。
「悪かったよ。だから、泣くなって」
「泣いてなんかいないわよ!」
 ディアッカは心の中でため息をついた。どうしていいか、分からない。下手な言葉をかければ、更にこの状況を悪化させるだけだ。そして、今頭にある言葉は「下手な言葉」だけ・・・。
 「誰にも死んで欲しくない」の「誰にも」には、自分も含まれているのか、とか。
(他の女だったら、簡単なんだけどなあ)
 ミリアリアには、それは通じない。それが、自分の所為なのか、相手がミリアリアだからなのか、それも分からない。



「もう、知らない!」
「わ。ちょっと待てって!」
 踵を返して医務室を飛び出そうとするミリアリアの腕を、思わず掴む。
「触んないでよ!」
 掴んだ手を振りほどこうとするミリアリアを、強引に引き寄せる。小さな体はディアッカの胸にぶつかり、その小さな背中を、ぽんぽんと軽く叩く手があった。
「おまえ、無理してたもんなァ。泣いとけば?」
 応えは、予想に反して、嗚咽だけだった。

そんな中、金髪褐色肌少年の思考は。
(あー。こういうのは、サイが適役なんだろうなァ。でも呼びにいく余裕ねぇしなあ。しかも、ここんとこ女の子とはご無沙汰だし・・・。うーん、いい香りすんなあ、ミリアリア・・・)
 戦闘で疲れているのにも関わらず、衝動と必死に戦っていた。


END



オチが、アホですんません。(笑)
結局、こんなかっこ悪いディアッカが好きなんでしょうなあ、自分。
ちなみに、ラクガキ「ディアッカ+ミリアリア8」の直後です。

ミリちゃんは強いと思うのです。
が、さすがにあの最後の状態は精神的にいっぱいいっぱいだったのではないか、と。
そして、停戦協定で、とりあえずのところの安息を得て、ふと緊張が解けて・・・、というイメージです。(ディアッカが安心できる存在だから、緊張が解けた、とはまだ言わない。自分的に(笑))

しかし!やっと触れました!(だから、その表現はどうか・・・(笑))
良かったなあ、痔。
停戦直後で、これ程度の甘さ加減。まだまだ先は長そうです。がんばれ、ディアッカ。(笑)
ナンパする女の子の扱いは知ってるけど、ミリちゃんにだけは弱い。そんな少女マンガ的関係が好みなのです。
こそばゆい系。
ああ、なんて心地良い響き。(デにとっちゃ、いい迷惑(笑))


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