模型の好きな人なら、たいていはご自宅に多少なりとストック、と呼びならわされる未組立てキットがあるものと思われる。ストックというのはまあ、右の写真のようなもんだ。たいていは模型屋さんに行き、新製品を見かけると、ついつい辛抱たまらんようになってついついひとつふたつ買ってしまう、んだけど、人間年を取るに連れて耳に入ってくる情報は増え、模型づくりに際してもいろんなノウハウ、いろんなべからずがどんどん蓄積されてくるわけだ。そうなると今度は、キットを作ろうと思って箱を開けたときに、それまでに溜め込んださまざまな情報が頭の中を渦巻き、うむ、今度はひとつこれをベースにバリエーションのちょいと違う物を作ってみよう、とか、こんどはひとつこんな塗装で、とか、まあ頭の中にバラ色の完成予想図が浮かんでいることであろうと思う。
んがしかし、現実はきびしいのだ。頭でわかっていても、手が追いつかないことはままある。コクピットの塗装が済んだまま、それ以上手が加わっていないスピットファイアMkⅩⅩⅠとか、エッチングパーツを折り曲げた所でそれ以上先に行ってないFW190-D9とか、あなたのお部屋のストックの中にもそういうキットが大量に眠っていないだろうか?断言してもいいが、それらのキットは、この先も完成することはない。なぜなら、あなたの興味はもうすでにそれらのキットにはないからだ。つまり、興味が続いているあいだに完成しなかったキットはこの先も決して完成することはないのだ。ならば人として、ここは興味が続いているあいだに、何とかキットを完成させてしまおうと思うのが正しいあり方といえるのではないか。このコーナーでは、そんなコンセプトのもと、一度開けた箱が閉じられるときは、キットが完成したときだをテーマに、一日でキット一個完成させようと言う無謀な試みに挑戦してみたい。
とにかく一日で完成させるのだ。余分な儀式が必要なキットや大スケールのキットは避けなくてはいけない。研ぎ出しの儀式が必要なカーモデルはパスした方がいい。パッと組んで、どばーっと塗装して、そこそこ見栄えのするものといえば、ミリタリー物が一番手っ取り早いと言えるだろう(いやもちろん、この世界ホントは気が狂いそうになるぐらい、奥が深いのだよ)。第一回目ってことで、やはり安心のブランド、タミヤのMMから、イタリア戦車、M13/40を選んでみた。大きさも手頃だし、スタイリングもいかにもラテン系の、近代戦争なんてやる気ねーんだよオレ達は、ってなスカし具合がステキだ(^o^)。実車については、調べたい人はネットで探せばいくらでも資料はある。とりあえず戦車研究室なんてのが有名だろう。が、あんまり開発経緯だの戦歴だの、そういうことは気にしなくていい。完成すればいいのだ。自宅に資料があれば良し、なかったら資料は、タミヤのインストだけで充分、と割り切ることが大切だ。そういうことで早速組んでいこう。
とにかくインスト通りに、なんの疑問も抱かずパーツを切り出し、パーティングラインを消し、どんどん接着していく。方針は、明らかに戦車本体とは別の物である、車載品(スコップとか、機銃とか)以外はとにかく全部くっつける。砲口がムクのままなので、ピンバイスとカッターでそれらしく穴を開けといてあげよう。なに?「パーツはランナーについた状態である程度塗っておくのがセオリーだぜ」?甘いな。そういうことをしてるから途中で、「今日はここまでにしておこう」とか思ってしまうのだ。ランナーから切り出されていないパーツ数と、人間の継続意欲は反比例するんである。ランナーがそのままの状態に近いほど、それまでの作業量とできあがった物の対比で、あまりに成果が上がってないような気がして、人間は続きをやる気を著しく損なってしまいがちなのだ。つまり、いかに速く、もう後は塗ることしか残っていない状態に持っていけるかが、勝敗を分けるのであるよ。
組んだら即塗る。サフェーサー?そんなもん吹かんでよろしい。タミヤを信じろ。色は箱絵を参考に好きな色で塗ればいい。60年も前の戦車の色なんぞ誰も覚えとりゃせん。オレはグンゼのミスターカラーのNo.39、ダークイエローにNo.41、レッドブラウンをちょっぴり混ぜた色でぶわーっと吹き付けてみた。もちろんカンスプレーでもよろしかろう。転輪は、一般的にフラットブラックで塗れ、と指定されているが、ここはゴムなんで、完全に真っ黒よりは若干グレーがかった色の方が気分がでる。「組んだあとだと転輪の内側とか、塗りにくいぞ」とおっしゃいますか?。塗りにくい所は、無理に塗らなくてもいいのだ。筆が入りにくい所には人間の目も入りにくいと思い切るべし。だいたい多少の塗りミスは、あとで汚してしまえばバレやせん。何?デカール?貼らん。貼ったら部隊が特定されて、詳しい人にあーだこーだと講釈垂れられるのが目に見えているではないか。尻尾を出してなければ、尻尾を捕まえられることはない理屈。だいたい実戦の中で、何度も修理や再塗装がなされるのが兵器なんだ。その過程でマーキングが判別できなくなってしまった車両だってたくさんあるはずなんだから。
そうはいっても、単純に素組みするだけではあまりに芸がない。仮にもわれわれ(って誰よ)はここまで、模型が趣味である、と胸を張って生きてきたんであるからして、多少は素人さんと違う所を見せてやらないと、やはり沽券にかかわるっちゅーもんだ。さて、戦車という物はすべからく履帯(キャタピラ)を履いているワケだが、これは結構重たいものである。キットのキャタピラを履かせてみると、左の写真のようにピンと張った状態になってしまうが、多くの場合、履帯というのはその重さで結構たわむのだ。ここはひとつ素人との差を見せるため、履帯に重さを与えて見ようではないか。
やり方はいくつかあるんだけど、代表的なのは転輪から細い線(糸とか、エナメル線とか)で履帯を下に引っ張ってやる方法、車体の内側からピンなどを突きだして、履帯を押さえつける方法、あと、別売りの組み合わせ式履帯セットを買ってくる方法(^^;)。今回はピン式で。ゼムクリップを適当な長さに切ってL字型に折り曲げた物を、適当な位置に開けた穴から突きだして、これで履帯を押さえる。実はM13/40の多くは、フェンダーの後部を切り取ってしまった物が多いのだけど、それやるとピン丸見えなんで、今回はパスしたんでした。ちなみに、写真によってはほとんど履帯の弛みがないものも見受けられるので、フェンダー切り離し、キャタピラ弛みなし、ってパターンで作るのも楽しいかも知れない。
んで突きだしたピンを瞬間接着剤で固定したあとで、履帯を通してみるとこんな感じになるわけだ。もっと微妙に弛ませたい人は、ピンの数を三本とか五本にしてみるのもよろしかろう。まあ、あんまり多くてもよろしくないと思うんで、少ない数で済むんならそれに越したことはない。
さあ、すべての不始末を泥濘と砂塵で隠してしまおう。今回は基本ウォッシング、補助的にドライブラシで行く。まずうんと薄めた黒(多少ツヤがあっても良い)で、サスペンションとか、エンジンフードやエグソースト・パイプ、スジ彫り線周辺にたぷたぷと乗せては軽くティッシュを当てて余分を拭き取る、を繰り返したあと、同じようにうんと薄めたレッドブラウン+ちょっぴりの黒で、今度は車体を上から下にだぷだぷと筆を往復させては軽く拭き取り、ってのを繰り返す。そいつが乾いたら、今度は車体色よりも明るい目のサンドイエローでドライブラシ。今回は角が浮き立つようなドライブラシじゃなく、退色、再塗装が繰り返されたような汚しにならんかな、と思って、ドライブラシも基本的に上から下にばさばさと当てる感じでやってみたんだがどんなものか。あとはお好みで黒やら茶色やらを適当にドライブラシしてやれば、
サイドビューはこんな感じ。履帯に一手間かけるだけで、結構ちゃんと作ってるように見えるからうれしいよな。逆にフェンダーに手を入れてない分、安直に作ってるって感じがするのは否めない所だろうか。(拡大画像・640×384/29.1kb)
こうやってみるとなかなかかっこいいでしょ(^o^)。ヘッドライトはやはり透明パーツで作り直した方が良かったなあと思うけど、そこで時間取られちゃうのもなんだし、まあこれはこれで案外うまく作れたかな、ってのは自画自賛が過ぎるかしら。あっ、スペアの転輪をつけ忘れてるぅぅ。(拡大画像・640×497/34.1kb)
えー、「一日で作れ」といいながら二日かかってしまいましたぁ(殴/蹴)。だ、だって、瞬間接着剤と適当なピンが手元になかったんだもん。あと、やはりフィギュアまで作りたかったなあと思いますな。さらにいうなら、やっぱフェンダーは切った方が………、と考えたらいかんのだよな、きっと。これはこれで完成。万歳(^o^)。
そ、そんな自分の首を自分で絞めるようなことは………