表紙 「人類の子供たち」
 P・D・ジェイムズ 著/青木久恵 訳
 カバーデザイン 菊池信義
 ハヤカワ・ミステリ文庫
 ISBN4-15-076613-4 \740(税別)

 いしいひさいちさんに「女(わたし)には向かない職業」ってシリーズがあります。今は"ののちゃん"のクラスの担任役で出演中の藤原先生(映画で矢野顕子がCVやった人ですな)が新人推理作家として活躍(?)するシリーズなんですけど、その元になった「女には向かない職業」の著者が、ジェイムズさん。れっきとした推理作家で、幾多の名作をものしてる人らしいですが、推理小説が苦手な僕は、初めてジェイムズさんの作品を読んだわけで(^^;)。

 それと言うのもこの作品、シチュエーションが結構SFファンを引きつけるんですなあ。すなわち………

 1995年、突如全人類から生殖能力が失われた。正確には男性の精子から正常な能力が失われる事態が発生したのだ。全人類は突如自分たちを襲った謎の災禍に必死の対策を試みるが、すべての試みはむなしく空振りに終わる。やがて全人類を静かな絶望と怠惰が押し包んだ2021年。英国国守の従兄弟でかつては国守の補佐も勤めたセオの下に一人の女性が現れる。停滞した情勢を改革しようとするごく少数のメンバーの一人であった彼女、ジュリアンとの出会いは、セオ、そして英国、さらには全世界の運命に激震を起こす発端になったのだった………

 てんでこれ、ミステリ文庫に入ってますが、ミステリというよりはむしろ"渚にて"などの終末テーマSFとでも言ったほうがしっくり来るような作品に仕上っています。特に前半の、いまや全世界で一番若い人間ですら25才という社会の枯れた様子の描写などは、雰囲気は違えどもその寂寞としたイメージにおいて"渚にて"を髣髴とさせるものがあってちょっといい感じ。

 SFではありませんから、たとえば"どうして人間から生殖機能が失われたのか"とか、そういう部分の考察は全くなし。"そういう世界なんです"の一言で済まされているようなモノなんですけれども、これはこれで、"見たこともない世界を描く"という点において、間違いなく良質のSFになってるような気がするんですがいかがなものでありましょう。しみじみとやがて悲しき世界を淡々と描く、こりゃなかなか拾い物。ラスト、"これでいいのかな?"って疑問なしとはしませんが、まずは満足。ああ、また非SF陣営の作品にSFテイストを感じてしまった(^^;)。

99/8/23


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