表紙 「天皇ごっこ」
 見沢知廉 著
 カバー装填 平野甲賀
 新潮文庫
 ISBN4-10-147322-6 \590

 かつて新左翼の活動家として成田闘争などにも参加し、その後左翼に幻滅して右翼に転向、テロ活動などで懲役12年の刑務所暮らしのなかで書き上げられた、というものスゴい経歴をもつ作者による、ものスゴい生れ方の本。

 実際にそこに暮らした者だけが書きうる、リアルな獄中描写(罪人が相手といえ、おそろしく人間的でない世界)のなか、間近となった昭和天皇崩御による恩赦へ向けて思い思いの策略をめぐらす囚人たちの悲喜こもごも。右翼に身を投じた若者のなかでわき上がるテロルへの衝動。三里塚の空港闘争に参加し、イデオロギーや大儀とは別の何物かに突き動かされる左翼の活動家。演劇を通じて精神病患者の回復をもくろむ医師たちがたどりついた究極の演目とは。そして、大イベントの開催にまぎれて入国に成功した右翼の大物が観た北朝鮮………

 自信の経験も元に、彼らさまざまな立場にある登場人物たちに共通しているのは、ぬぐい去ろうにもぬぐいされない"天皇"という不可思議な存在だった………

 極めていびつな発展をしてきた現在の日本にあって、日本人が良きにつけ悪しきにつけ、拠り所にするに足る物とは、天皇という存在でしかない、とする作品、と言えそうな気がするのですが、で、そういう説明の仕方をすると多分に右翼的な本ではないか、とも思われそうですが、んでもってさらに(しつこくてすみませんね)著者の見沢さん、現在は"民族派"と呼ばれる右翼の新勢力にみずからを置いてらっしゃる方だけに余計にそう思えるかもしれないのですが、決してコトはそう単純じゃあありません。

 この作品が初めて上梓されたときには、右翼、左翼がともに目を剥いたそうですが、さもありなん。いわゆるステレオタイプな"右翼"、"左翼"なんて色分けからは想像もできない思想性があり、例え左がかった考え方をするような人(たぶん僕も、どちらかと言えばそっちだと思うのですが)であっても、この、右翼的思想をもった著者のアジテーションについうなずきそうになっているのがコワイ(^^;)

 「天皇ごっこ」というタイトルも実は重大な意味を持っているのですが、この辺は読む人がそれぞれにその人なりの"ごっこ"の意味を見い出すのだろうと思います。誤解を恐れず言うならば、"右翼(に)も捨てたもんじゃない(人物がいるなあ)"って感じか。こういうのはなかなか、新鮮。

 いいか、田村君、近藤はな、心情右翼だ。天皇を愛している。恋闕(れんけつ)という奴だ。いいかい、あいつはな、この国(北朝鮮のこと/注・乱土)に幻の天皇制を見たんだよ。二・二六事件の将校や血盟団、朝日兵吾や甘粕(アナーキスト大杉栄を殺害した甘粕大尉/注・乱土)、中野(正剛、右翼の大物/注・乱土)や三島(由紀夫、自害した作家/注・乱土)が夢見て、あてどなく繰り返してきた"天皇ごっこ"という血のゲーム、その彼らが成しえなかった夢幻と理想、それを近藤はこの国に見たんだよ。

 天皇の支配と北朝鮮のあの不気味な統制の中に潜む共通性を示唆する文章を読んだのは初めてです。ある意味先鋭的な右翼思想の持ち主のみが見い出しうるテーゼなのかもしれないですが、にしてもこれはスゴい。ちょっとびっくりしました。宮台真司さんの解説も読み応えがあります。

 やー、これマジすごいわ(^^;)


99/8/12


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