表紙 「裸の自衛隊」
 別冊宝島編集部・編
 カバーデザイン 坂川事務所
 写真 (c) Ben Simmons/PPS通信社
 宝島社文庫
 ISBN4-7966-1564-4 \533(税別)

 「レギオン襲来」ではやたらカッコいいところを見せてくれた日本の自衛隊。んじゃそのホントのところはどうなの?てのを、複数のライターたちが各々の切り口でルポルタージュする、"別冊宝島"のスタイルに乗った………というか、これは実際"別冊宝島"の中の一冊。1991年に同名で別冊宝島の一冊として発売されたものの文庫化です。

 当時はまだまだバブリィな時期で、当然好景気。好景気には自衛隊など、公職はどうしても人気薄になってしまう、そういう時期のルポルタージュだけに、自衛隊自体がどん底に近い状況にあったせいか、本書で語られる自衛隊の世界というのは、あまりにもこちらが想像する"軍隊"とはかけ離れた、言ってみれば"こんな状態で一朝事あらば、この国の守りはどうなってしまうのか"なんて柄にもない事を考えてしまうわけですが(^^;)

 実際の自衛官たちや自衛隊を退官した人達のコメントにまじって印象的なのは、本書が刊行されたとき、そしてまた今現在もなお後輩ぶりが指摘されている教育者からのコメント。同じように"人を一つの枠にはめる"事を使命としていながら(教育の使命が"個性を伸ばす"ことにあるのが本筋だとは思いますが、今の日本の教育は必ずしもそういう路線じゃないですよね)、その使命が無残なまでに破綻している教育界から見た、義務境域と自衛隊の違いとは何なのか、ってのを現職の教員である諏訪哲二さんおコメントがなかなか、読み応えがありました。いわく………

 命令や指示ということで言えば、学校でも一貫した態度を続けている教師は、めったに校内暴力の標的にはなりません。たとえどんなに管理的な教師であっても、その態度が一貫していれば、生徒はあまり反抗しませんね。殴られるのは、あるときは右といって、あるときは左という教師。そのときに、その教師の欺瞞性に鋭く勘づく生徒がいて、その生徒が学力が高い場合はしょーがねー先生だなあと思って黙っているけど、下のレベルの生徒は、怒って反抗するわけです。

 あるいは………

 軍隊というのは現実社会ではなく、教育をするために作られたフィクショナルな場所なんです。それは学校だって同じなんですが、そこに現実社会がどんどん侵攻してくるわけです。だから学校でも、枠の中だけで生徒の役を演じさせることすらできなくなっている。それを私は、大衆社会との闘いでぎりぎりの撤退戦をしていると言うわけですが、自衛隊もまた、同じような問題を抱えているんでしょうね。

 なんてのはちょっとビジネスライクすぎるきらいはあるけれど、それなりにプロフェッショナルなクールさに満ちたコメントであるとは思います。ある意味あまりに無責任ですけれど。

 その他、日本人に根づかない常備軍の思想などにも触れてはいるんですが、真摯な切り口と面白半分な切り口が混在してて、誉めればいいのかけなせばいいのか、ちょっと判断に困る本。ていうか、ここからさらに自分なりにいろいろ考えて判断のための材料をさらに蒐集して行かなくちゃいけない、ってジャンルの話題なんでしょうね、この問題自体が。

 それはそうと、この調子で"別冊宝島"の文庫化は進んで欲しいですね。とりあえず"怪獣学・入門"をぜひ、ってことで(^^;)。


99/7/29


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