表紙 「仮想空間計画」
 ジェイムズ・P・ホーガン 著/大島豊 訳
 カバーイラスト 加藤直之
 カバーデザイン 矢島高光
 創元SF文庫
 ISBN4-488-66321-4 \920(税別)

 現実と見極めのつかない、高度な仮想空間でのさまざまな経験からさまざまな情報を得ようとする極秘プロジェクト"オズ"。その失敗の後、精神病院で我に返ったプロジェクトの中心人物の一人、ジョー。過去の記憶を取り戻し、新たな人生を開始しようとするジョーだが、なぜか彼を取り巻く環境には妙な感じがつきまとう。

 どうにも納得のいかない状況のまま、新しい人生に馴染んで行こうとするジョーだったが、同じように自分の人生に妙な違和感を感じていた一人の女性、リリィと出会ったところから、ジョーの知らないところで進められてきていた企みが徐々に明らかになってきた………。

 このところ、また刊行ペースが上がってきていてうれしい限りのホーガンSF、前作「量子宇宙干渉機」の一年前、'95年に刊行された作品。最近のホーガンらしい、コンピュータ・テクノロジーをメインに据えたサスペンス仕立てのSFになってます。構成がかなり凝っていて、読んでるほうの予想を微妙に外しながらホーガンらしいどんでん返しの快感にもっていくあたりの筆捌きはなかなかのもので、"ストーリィ・テラーではないがSFが原初的に持っているべきセンス・オブ・ワンダーにあふれている"なぁんて紹介のされ方ばかりしてきたホーガンさんも、さすがに経験を積んで小説家らしくなってきたのかな、なんてね(^^;)。

 ただ、小説としての体裁が整うにつれて、ホーガン作品の魅力ともいうべき豪快なSF的アイデアのアクロバティックなこじつけみたいなモノの快感はちょっと薄れちゃったかなあ、と。このお話、何となく初期の名作、「創世紀機械」に雰囲気が似てる感じがするな、って思ったんですけど、あっちを読んだときの胸のすくようなラストの快感には、ちょっと及ばないかなあ、と感じました。

 それなりにホーガン・スタイルのフォーマットは踏襲されてるんですが、お話がちゃんとしてるぶん、SF的な快感に欠けたかなぁ、って感じで。んー、SFってのは難しいですねえ(^^;)。


99/7/28


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