表紙 「鷲の奢り」
 服部真澄 著
 カバーデザイン:中原達治
 祥伝社文庫
 ISBN4-396-32692-0 \857(税別)

 かつて伝説的なクラッカーの逮捕に功績のあったコンピュータ・セキュリティの専門家、笹生に日本の通産省が持ち込んだ依頼、それは謎のベールに包まれたアメリカ人発明家、クレイソンの身元調査。アメリカの特許法をうまく利用し、重要な発明を秘密裏に登録しておいて、あとから同様な発明を元に新製品を発表した外国企業を相手取って訴訟を起こし、巨万の富を築いている人物こそ、謎の発明王、クレイソンだったのだ。

 日本の先端技術企業の応援を得てクレイソンの身元調査に乗り出す笹生、だが彼の周辺では米国の特許ビジネスと革命的な新技術に群がる国家機関や巨大企業、そして暗躍するダイヤ・シンジケート、さらには情報ビジネスに乗り出したマフィアや笹生とは因縁浅からぬスーパー・クラッカーも登場し、巨大な謀略戦が幕をあけていたのだった………。

 前作、「龍の契り」でも女性らしからぬ(失礼!)スケールの大きな国際謀略サスペンスを読ませてくれた服部さんの第二作。今回も日本人ばなれした壮大なスケールの謀略小説であります。んがっ、しかーしっ!

 じつは前作でも気になっていたんですがこの方の作品、お話のスケールのデカさとは裏腹に、人間の描き込みが悲しいぐらい貧弱で、主人公の行動の動機づけがあまりにも希薄、ちうか舞台設定ばかり大きくて主役不在の、アメリカ製SFX超大作映画みたいなもんなんですな。だから分厚い本であるにもかかわらずさくさく読めて、しかもなーも残らん、という不思議な本になっていますねえ。

 ディティールにも難ありで、クラッカーと表現すべき人種を平気でハッカー(それはイイモノだってば)と表現したり、インターポールに専属のエージェントがいたり(インターポールってのは国際間の警察の情報交換のための組織なんだってば)、「途方もない金持ち」と言われて主人公が、「となると『ウィンドウズ95』で世界のソフト市場を独占しようとしているビル・ゲイツ?」(あのねえ、普通の会話を想像してごらんなさいな)なんて読む気がなくなる表現があったりと、いいところで妙に「外された」感じを受けちゃうんだよなあ………。

 コンピュータのクラッキングの手口とか、お話の中で重要な位置を占めるとある先端技術についての説明も「そういうもの」ってことしかわからないから結構ストレス溜まりますねえ。全体に突っ込みが浅く、でっかいゾウの表面をなでただけって感じなんだよなあ………

 お話の流れはそこそこ面白いけど、時間潰し以上の価値はありませんな、これは。

 それにしても大原まり子さんといいこの服部さんといい、自分に近い年代の女性が書く文章がどうにも好きになれない、ってのはなんか他に理由があるんじゃないかと思ってしまう今日このごろ(^^;)


99/7/22


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