表紙 「トキワ荘実録」−手塚治虫と漫画家たちの青春−
 丸山昭 著
 表紙写真:1954年撮影の手塚治虫氏と著者
 カバーデザイン:DOM DOM
 小学館文庫
 ISBN4-09-403441-2 \476(税別)

 入社間もない新入り編集者であった著者は、いきなり当代一の人気漫画家、手塚治虫に張りつく"手塚番"を仰せつかる。"いよいよオレも一人前の編集者になった"と有頂天な思いになったのはつかの間のこと。殺人的なスケジュールの中で、各社の編集者も一刻も早く自分の担当する連載作品のアップに血眼になるこの世界、何よりモノを言うのは体力なのだった………。

 てんで日本のマンガ文化の創世紀、若き手塚治虫、更に若い、トキワ荘に集まった青年漫画家たちとともに泣き笑いの日々を送った、講談社の編集者、丸山さんが綴る、マンガの青年時代のエピソードの数々。

 これもまた、一つ事に打ち込んできたヒトだけに可能な、軽妙ながらも時に深い、味わいのある作品。"トキワ荘"と手塚治虫さんのエピソードは、これまでにも石森章太郎さんや藤子不二雄さんなどによる楽しい読み物があるのですが、こちらはマンガ家とは、時に対立することもある編集者から見た、若いマンガ家たちの世界ってことで、ちょっと切り口の違ったモノになっています。

 それにつけても日本のマンガ文化のスタートラインにあって、現在に至るまでのマンガ文化の礎を築いた人々の、なんとエネルギッシュなことよ。原稿にペン入れしながら、他の作品のネームを口述する手塚治虫さん、なんてのはちょっと信じられない世界ですよねえ(^^;)。

 "幻魔大戦"で、石森章太郎さんが"いずみあすか"名義で原作にもタッチしていたってのは知っていたんですが、このお名前、それ以前に石森さんと赤塚不二夫さんの合作作品のときのペンネームとしても使われていた、とか、今まで知らなかったこともいくつかあって、個人的に大変お得な一冊\(^o^)/。

 ただし一点だけ文句ありで、それは書名。もともとこの作品は「まんがのカンヅメ−手塚治虫とトキワ荘の仲間たち」ってタイトルで、こちらのタイトルの方がよほど本書の内容にふさわしいモノになっています。というか、「トキワ荘実録」という本では断じてないんですよこれ。著者の丸山さんの意向があったのか、出版元の意向なのかは知りませんが、できれば親本のタイトルと同名で出していただきたかったです。そこだけ、大変に不満ですね(^^;)。


99/7/16


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