表紙 「愚者たちの街」
 スチュアート・カミンスキー 著/棚橋志行 訳
 カバーデザイン:亀海昌次
 写真提供:amana images
 扶桑社ミステリー文庫
 ISBN4-594-02714-8 \648(税別)

 以前に紹介した、シカゴ市警の老刑事、エイブ・リーバーマンを主人公にした警察小説シリーズ、これが正真正銘の第一弾。60に近い老刑事、エイブ、彼の兄が経営するデリカテッセンに集まる老人たち、エイブの同僚、ハンラハンももうすぐ50に手が届こうというバツイチ刑事、てなあんばいで出てくる登場人物の多くが働き盛りをやや越して、そろそろ枯れはじめようかってヒトばっかり(^^;)。

 当然の如くこのシリーズの売りは、しみじみと哀愁が漂う人間模様の描写にあるわけですが、いいんだなあこれが(^o^)

 派手な事件の描写の代わりに、この作品で多くのページを割かれて描かれるのは、エイブが担当する事件よりもむしろ、すでに結婚した自分たちの娘夫婦の夫婦関係の軋轢に心を痛めるエイブだったり、離婚してしまってから自分の生活のリズムが微妙に狂いだしてしまい、それをなんとか立て直そうとするエイブの同僚、ハンラハンの話だったりするわけであります。決して派手な見せ場があるわけでなく、何やら淡々と、仕事をこなし、家族に思いをいたし、近所付き合いに頭を悩ませるおじいちゃまのお話なんですが、これがなんとも言えずいい味。あまり良く存じあげない方なのですが、棚橋志行さんの翻訳も、菊池光さんほど個性が前に出てくる(^^;)わけではないのですが、控えめながらも独特の個性がほの見えてこちらもまたいい感じ。たとえば、夫婦仲に亀裂を生じた娘、リサとその夫、トッドとの間をなんとか修復しようとリーバーマンが乗り出すシーン………

「グラウンド・ルールを発表する」リーバーマンがいった。「ギリシャの言葉を引用してはならない。相手を罵倒してはならない。カブスにまつわる発言は禁止。そして、"ふざけるな"といっていいのは、おれだけだ。」
「面白くないわ、父さん。」リサがそういって、テーブルごしにトッドをみた。
 トッドはひどい様子で、髭を剃る必要があり、髪にも櫛を入れていなかった。シャツはグリーン、ズボンは茶色のコーデュロイだった。
「彼女のいうとおりですよ、エイブ」トッドはいった。
「交戦中の両陣営の意見が一致したところから、はじめられるとは」と、リーバーマン。「じつに幸先がいい」

 むっふっふ(笑)。

 僕はこのジャンルの小説はあまり詳しくないのでよく知らなかったのですが、著者のカミンスキーさん、このシリーズ以前にも"私立探偵トビー・ピーターズ"とか"捜査官ロストニコフ"などの人気シリーズもある売れっ子らしいです。機会があったら読んで見ようかな。"リーバーマン"物ほどの哀愁は漂ってないらしいですが(^^;)。


99/7/15


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