表紙 「ベスト&ブライテスト」
デイヴィッド・ハルバースタム 著/浅野輔 訳
上巻:栄光と興奮に憑かれて 
中巻:ベトナムに沈む星条旗 
下巻:アメリカが目覚めた日 
カバー装幀:神田昇和
カバー写真:PPS通信社
朝日文庫
ISBN4-02-261261-4 \900(税別)
ISBN4-02-261262-2 \900(税別)
ISBN4-02-261263-0 \900(税別)

 「覇者の奢り」などで、日本でもつとに有名なアメリカ人ジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバースタムによる、アメリカ合衆国の首脳部がいかにしてベトナム戦争に向き合い、それに対処してきたかをたどる大作。ここで語られるのはベトナム戦争の現場での、若い兵士達の悲惨な苦闘ではなく、彼らをそんな環境に追い込んだ国の指導者たちの詳細な行動(と心の動き)の記録です。

 それまでの、職業政治家に牛耳られるアメリカ議会政治に、初めて職業政治家以外の幅広い、そして東部エスタブリッシュメントに代表される頭脳明晰な若き知識人たちを大量に登用したケネディ、そしてケネディの死後、彼ら"最良にして栄光ある(ベスト&ブライテスト)"ブレーンを引き継いだジョンソンという二人の大統領がなぜ泥沼のような戦争にのめり込み、そこから抜け出すことができなかったのか………。

 個人的にベトナム戦争の最大のターニングポイントとでもいうべき"テト攻勢"("プラトーン"のクライマックスですね)のころ、僕は小学生で、ようやくニュースで言っていることの一部が判りかけてきた頃だっただけに、ここらあたりの記憶は結構あったりするんですが、その裏で、アメリカの指導部が一体どのようなことが起きていたのかが、鮮やかによみがえります。

 一読して何ともいえない不思議な気分になってしまうのは、ベトナム戦争に向き合ったアメリカの首脳部たちの動きが、前の戦争にむかって歯止めのない、そしてなんの根拠もない自信と思いこみで突っ込んで行ってしまった旧大日本帝国の首脳たちの動きと気味悪いぐらいに似てること。この薄気味悪いぐらいの共通性は一体どこから来るんでしょう………。

 自他共に認める俊英が結集したとき、そこにはその秀才たちのそれぞれの自信がお互いのそれを増幅させ、それと引き換えに、まわりに目を配る、というとても基本的なことがらを「オレには判ってるから」的な、無意味な思いこみで覆い隠してしまうって言う事なんでしょうか。

 国としての精神年齢も、なんか戦争当時の日本と、ベトナム戦争の頃のアメリカって似ているのかも知れないですね。一つの大きな試練を乗り越え、自分の国とその体制っていうモノに大きすぎる自信を持ってしまう、ってことなんでしょうか。日清・日露に勝利した日本と、第二次大戦を勝利に導いたアメリカ、ことの善し悪しとかそういうものとは別なところで、ヒトの心に生まれるモノっていうのはどんな人間でも同じなのかもしれませんね。

 内容が内容だけに、読むのに骨が折れるのも確かですが、なかなか、良い本ではないかと。


99/7/13


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