表紙 「クロノス・ジョウンターの伝説」
 梶尾真治 著
 カバー人形製作:北原政俊
 カバーデザイン:小倉敏夫
 ソノラマ文庫NEXT
 ISBN4-257-17341-6 \552(税別)

 やられた(笑)。ラブ・ストーリィでぞわっとしたのは久々であります。いやー、さすがカジシン、やってくれるぜチクショーメ(^^;)

 " クロノス・ジョウンター"。それはついに完成した時を跳躍する装置。非生物、小動物による実験では、若干の不可解な現象を残しつつも間違いなくそれは動作し、目標物を正確に過去に飛ばすことができることは立証されていた。残された実験はいよいよ人間による実験。被験者は?そしてその被験者はなぜ、危険を承知で過去へと飛ぼうとするのか………

 SFファンにとってはおなじみのテクニカル・ターム、"ジョウント"が使われていることからして、最初はスピーディーな時間旅行者のアクションなのかと思いこんでいたのですがそうではなく、これはじつに、甘く切ないラブ・ストーリィ。ジャック・フィニィもかくやってなぐらいの大甘ラブ・ロマンスなんですが、これが実にこの、快いのであります(笑)。

 時間旅行ネタってのは、"どこに行くか"、"何をするのか"、"(出発地点に)もどれるのか"、ってあたりの匙加減がお話の面白さの重要な部分になるのだと思うのですが、この作品では"クロノス・ジョウンター"という時間旅行装置に一種の"しかけ"を施すことで、ここから、えもいわれぬ面白さがうみだされるように仕組まれていますね。詳しくは読んでのお楽しみですが(^^;)。

 この作品、文庫化に際して新たに書き下ろされた一遍を加えた、3編の中編からなる連作、という体裁をとっているのですが、"クロノス・ジョウンター"という装置自体の制限から、お話自体の流れがどうしても似たものになってしまうキライなしとできないところがあって、そこのところだけがちょっと残念です。ですが、その中の第2話の出来がもう圧倒的に良くて、多少気になるところはあってもまあいいか、って気にさせてもらえました。いやー、フィニィばりのラブ・ロマンスを、オーソドックスな日本SFスタイルで書き上げた作品。いいですよ、これは(^o^)。


99/6/22

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