表紙 「武王の門」
 北方謙三 著
 カバー装画 榎戸文彦
 新潮文庫
 ISBN4-10-146404-9 \667(税別)
 ISBN4-10-146405-7 \590(税別)

 なんかクセになっちゃった(^^;)北方歴史冒険小説(あえて"冒険"を追加してますが)、これが正真正銘の第一作。これまでに読んで来た"波王の秋"、"道誉なり"、もちろん"破軍の星"などとも微妙にクロスオーバーする作品。

 後醍醐帝の皇子、懐良(かねよし)親王。8才にしてわずかな共を連れ比叡山に逃れ、14才で九州平定の任を受け征西大将軍として、怱那水軍と菊池一族のみを後ろ楯に、孤立無援の九州平定の戦いに乗り出した彼の行く手に待つものは………

 北方歴史冒険小説の原型は、この作品でほぼもれなく網羅されているのだなあと感じ入ります。逃げ場のない状況で、自分の存在の全てをかけておのが夢を全うしようとする男、そんな男にみずからの夢を託そうとする男、武士の世、という新しい世の中の仕組みを作ろうとする者たち、天皇の親政という、古きよき公家の栄光の時代を取り戻そうとする者たち。そのどちらにも組みすることなく、おのが世界の平穏を守るためにならば戦うことも辞さない者たち………。北方小説を彩るさまざまの登場人物たちのフォーマットは、全てこの"武王の門"から登場していますね。

 加えてなんというか、この小説には"若さ"があるなあ、とも感じます。それまでの現代ハードボイルドから、全く新しい"歴史小説"というジャンルに挑戦する気負いみたいなものでしょうか、登場人物たちは自らの生きざまを貫くだけでなく、"国"とか"日本"とか"民衆"みたいなものにも思いをいたしその事に対しても明確な自分の思想をもって行動する、って登場人物たちには、なんというか、少々気負ったところもあるけれども若く、さわやかで、どこか悲しいイメージがつきまといます。

 この作品を完成させたとき、北方さんはそろそろ40才ってあたりで、とても"若い"とは言いにくいのですが、それでもやはりこの作品、なんかこう20才代の若者のイメージを感じます。途中で読むのを中断するのがもったいなくて仕方がない作品。いやあ、いいです(^o^)。


99/6/18

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