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凧あげ
凧揚げむづかし  「冬の遊び」の定番の「凧揚げ」。でも最近は木や電線に引っかかっている凧はあまり見かけなくなりましたね。
愛好家や各地で残る「凧揚げ大会」でしか楽しめなくなってきているのでしょうか?

 凧揚げは他の道具を使った遊びの中で一番不得手な遊びでした。
駄菓子屋で買っては壊し、買っては壊し・・・。隣の友人がスーと揚がって行くのにこっちは全然揚がってくれない。
 いつしか地面に叩きつけられ、木に引っかかりボロボロになる凧。半べそをかいて家に帰ると、「一度落っこちた凧は揚がらね〜んだ」と、とうちゃんのトドメノ一言。!半べそだったのに本泣きだぁ〜(T_T)(T_T)(T_T)。

 指導員の頃、「凧作り」なんぞもやりましたが、やはり×。本を買い、道具も揃え、材料も駆けずり回って探し、キレイに色を塗り・・・「いざ初フライト!」。飛ばない(揚がってくれない)!。ほんと苦手。でも凧への憧れは未だにぬぐい切れないのです(-_-;)。

ウナリを付けた武者絵の描かれた角凧なんぞを「ブ〜ン」とウナラせながら揚げるのを夢見ているのです。
そんな「凧べた(?)」ですが、少年期の一時期だけ栄光の時がありました。
栄光  三多摩に越してきてから遊びは劇的に変わった。凧揚げには最高のロケーション。周りは雑木林と畑が広がる。風が通り抜ける。

 早速お年玉で凧を買い、凧揚げに興じた。ロケーションは抜群だが「ウデ」が最悪らしく、高く揚がってくれない(T_T)。

 その凧との出会いは突然やってきた。冬休みも終わり、季節風の強まる頃、凧揚げには絶好の季節の到来だ。ワンパクどもは学校から帰って来ると三々五々集まり凧揚げをする。ぐんぐん揚がる友だちの凧を尻目に、墜落と分解を繰り返す我が凧・・・。
 その日も近所の駄菓子屋に凧を求めに行った。角凧やヤッコ凧に混じってその凧はあった。
 ヤッコ凧と同じような両ウデに風を受ける構造だが、形は「蜂」。羽の部分が赤で胴体が黄色。予算はギリギリ。でも目と目が合った(と思いたい)し、飛びそうだ(あてにならない)し・・・。ということで彼(ハチ凧)を抱えスキップして帰って来たのだった。

 さっそくヨリを調整し、糸目を合わせる。「尻尾は付けないんだよ」のアドバイスも駄菓子屋のおっちゃんから頂いている。ので、忠実に守る。
いざ、家の前に広がる畑へ!
 「いい風」が吹いている。「いい風」とは季節風である。乾いた冷たい北風である。
「いい風」は家の2階から確認ができた。部屋を出て、物干しのあるベランダ越しに大きな背の高い赤松が数本固まって立っているのが遠くに見えていた。
「いい風」のときはこの木が風に揺らぐ、その揺らぎ加減で「今日は揚がる!」、「今日は無理だな〜」と、判断するのだ。

 「飛ぶかな、落ちるかな・・・」。期待と不安を胸に新凧を抱えて前の茶畑へ行く。
寒中の空は青く晴れ渡り、枝のシルエットのみとなっている雑木林も北風に震えている。「いい風」が砂埃を巻き上げ、松の木もいい具合に揺れている。

 ここからは風との駆け引きだ。なんたってひとりでやるんだから。誰の力も借りないんだ。
手元に凧を持ち、「いい風」が吹くのを待つ。するすると糸を出しながら凧を風に乗せていく。凧はお辞儀をしたりイヤイヤをしたりしながらも繰り出される糸と風を受けながら徐々に高度を上げていく。
 ノドがからからだ。真剣勝負だ。
 「ハチ凧」はこれまでの凧とは一味も二味も優れていた。安定した飛行が得られた。こんな素晴らしい凧に出会ったのは初めてだ!彼はグングン高度を上げていく。こちらの糸操作に素直に反応してくれる。
もう有頂天だった。自然にニコニコ顔だ。「これから毎日楽しくなるぞ!」。

 それから毎日、「ただいま〜」「いって来ま〜す!」の日々が続く。
 近所のワンパクどもも彼の安定した飛行を羨望の眼で見ていた。
いったいどのくらい糸を伸ばしたことがあっただろう?豆粒ほど、ゴハン粒程だっただろうか?
 
 彼は突然吹く強風にも機敏に反応してくれた。右に傾けば右に糸を持って行き前後に糸を動かす。すると左に軌道修正し安定する。
 風が弱くなり、少しずつ高度を下げ始める。失速状態だ。素早く糸を巻き上げ、真ん中で糸を前後にあおる。そうすると高度を上げる。また風が出てくる。糸を出す。高度を上げる。こんなことの繰り返し。これが凧揚げだ。何時間だって上げ続けるんだ。

敵機襲来!  ある日いつものように彼と遊んでいると、東の茶畑から見慣れない凧が揚がってきた。
 白地に番号が大きく書かれている。形は五画か六角か?長い足が付いている。
敵機(?)は徐々に高度を上げていく。静かに優雅にそして凛々しく。これは只者じゃない!見れば分かるさ。揚げ方が素人じゃない。
 敵機はあっさり我が凧を追い抜いていく。遥か上空にて季節風をその白いボディーに受けながら安定して揺らいでいる。長い足もヒラヒラと優雅だ。
「負けた」。なんだあいつはカッコつけちゃって!。なぜかライバル心がメラメラと燃えてきた世間知らずの少年が茶畑にひとり現れてしまった。

戦国時代  敵機(あえてこう呼ばせて頂いた)襲来以来、ワンパクどもは敵機との戦いに明け暮れた。この敵機は毎日は現れない。土日限定。大人が揚げているのか?お互い姿は見えないのだ。そしてどちらも揚げているパイロット(?)を探したりはしないのだ。
茶畑や家の陰で揚がって来る凧同士しか見えないのだ。それで十分。相手は凧同士なのだから。
 さて、敵機はバリエーションが豊富だ。次々と新型機を揚げて来る。28番(鉄人か!)、36番(間の数字はどうした?)、18番(オハコか!)。全くいたいけな少年たちをあざ笑うかのようだ。
 みな湧き上がるライバル心と闘志を胸に果敢に彼に挑戦する。しかし相手は(多分)大人だ。手作りで凧をこしらえるプロだ。どんな条件でもス〜と揚げていく。こっちは悪戦苦闘す強風吹きすさぶ中、瀟洒な白い姿を長い足をゆらゆらさせながら揚げていく。
 高さも半端じゃない。ワンパクどもの凧どもをあっという間に追い越し遥か上空を制圧する。負け続きだ。
 ワンパクどもの視線はおのずとハチ凧に集まる。「揚げろ揚げろ〜」と、視線が訴える。こっちだってお小遣いに限りがあるんだ。糸だっていいやつは高いんだ。
 買いたし、買いたし糸を伸ばす。糸巻きも親になきつきクルクル回るやつを買ってもらった。取り込むのに30分くらい掛かるほど伸ばした事もあった。
 敵機も負けず嫌いらしく、いい勝負が続いた。世間には「凧合戦」などもあり、糸同士を絡ませ、糸を切った方が勝ち。なんてのもあるが、こちらは「どっちが高く揚げたか」だった。これはこれで風との折り合いや糸との関係など、技術と経験が物を言う。ワンパクどもには試練の戦いだった。
 戦国時代は2シーズン続いた。

さらばハチ凧  凧揚げシーズンもそろそろ終わる頃、いつものように茶畑で揚げていた。今日はワンパクどももいない。一人で大空を独り占めだ。
 「いい風」も吹いていて彼はいつものようにグングン高度を揚げて行く。一時間くらい遊んでいた頃か、急に風が強くなり始めた。
 さすがのハチ凧も大きく右に左に揺さぶられ、糸がピンと張る時も出てくる。こうなるとテンションが掛かり過ぎ、糸切れの心配が大きくなるのだ。
 「そろそろ取り込もう」。しかたなく撤収を決め、糸を巻き始める。今日の風は強いだけでなく舞っている。時折南に伸びているはずの彼が真上に来る事もある。こんなことはめったにないのに。
残り400b位まで巻き上げて来た時だ。強風が彼を強くあおる。テンションは強力でウデに伝わる。その瞬間腕に掛かっていた力が無くなった。「切れた!」
 彼は遥か上空で強風にあおられ南に流されて行く。
急いで追っては行けない。およその落下場所を見定めてから捜索に行くのが正しい。
さも無くても400bほど出ているのだから。風にも流される分を考えればもっと遠くに墜落するはずだ。
 なんともやるせない感情を抑えつつ、落下していくハチ凧を凝視する。「新青梅街道跨いだな。三中の方角だ。校庭まで行ってくれたらいいな。」
 およその墜落場所をイメージしつつ、家にもどり自転車を取り出し、猛スピードで現場へ急行する。
 電線なんかに引っかかるとアウトだし、車にひかれたらぺしゃんこだし・・・。色んな不安を胸に捜索する。しばらく探していると、団地の植え込みに彼はいた。
 誰かが飛んで落ちて来た凧に気が付いたのか、糸をキレイに巻いてくれていて、すぐ分かるように植え込みの上にちょこんと乗せてくれていた。世間知らずのワンパクは感謝もそこそこ、彼を抱きかかえ家に飛んで帰った。
無事に思えた彼も車にでもひかれてしまったのか、栄光に輝いたボディーは骨が折れ、和紙も大きく破れている。

 ショックは大きかった。また飛んでくれるだろうか?それからしばらく彼の修理に時間を費やし、ほぼ原型を回復させた。
 シーズンは終わろうとしていた。彼をなれ親しんだ茶畑に連れて行き、いつものように風に乗せ糸を出し・・・。
 オヤジの言うように、「一度落ちた凧は上手く揚がらね〜んだ」の言葉通り、ハチ凧も二度と大空高く揚がることは出来なかった。

 少年時代の楽しくも辛き思い出だ。彼と過ごした2年間は凧揚げが苦手だった私にとって栄光の一瞬だった。


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