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大島(紀伊長島)報告書


種別天候日程
シーカヤック 曇り(22)・晴れ(23) 2002年9月22,23日
1.活動報告
 目的:中秋の名月を無人島で。
 場所:三重県紀伊長島町・海山町入会地 大島
 出艇地:紀伊長島町古里
 メンバー:ばたやん、坪、マルコ、R
 使用艇:ルクシャW(FRP)、ノードカップ・ジュビリー(FRP)、フェザークラフト・K-light+(Alファルト)、フェザークラフト・カフナ(Alファルト)

 天候・海況:22日うねりは高いが、波形がなだらかな船酔い日和。23日オフショアの風強め。
2.詳細

@.4人の探検家
 仕事場で向かいの席に座るばたやんにシーカヤックに行こうと声をかけ、三重県に行くので坪にも声をかけた。他にも何人か声をかけたけど、皆何かしら用事があって断ってきた。そんな時に、シーカヤックに行こうと夏前から言うてたマルコからメールが入った。これはまた、面白い面子がそろったもんや。
 ばたやん。怖いもの知らず、痛いもの知らず。
 坪。冷静沈着な自爆野郎。
 マルコ。いずれは医者だが、今はただのうっかりもの。
 そして僕。
 この4人には、探検部員の血が色濃く流れている。そう、笑いがとれるなら少々のつらいこと、いや、大概のことには目をつぶります。

A.スイングバイ
 今回の目的地は大島。紀伊長島町の沖合5kmに浮かび、東西に細長い西島(仮称)と、灯台の有る東島(仮称)、それとたくさんの岩礁からなる。
 まずは、古里の比幾海岸にてTXレスキューをトレーニングしたあと、10時半に出航した。天候は曇りで暑くもなく寒くもなく快適。風は微風であり航海に影響ない。赤野島北西まで軽く漕ぐ間メンバーに目を配ると、全員パドリングに問題はなさそうだ。そのまま赤野島西岸を南下しよう。
 11時に赤野島南西端の海食洞を横目に眺め、島の南を回りついに大島を目指して外洋に漕ぎでる。この辺りから、大島がある南東方向よりうねりが入ってくる。風波はなくひたすら上下動を繰返すが結構周期が速いため、パドリングを止めると少し気持ち悪い。大島が徐々に大きくなる中、ばたやんけろっぴ。紅生姜でピンクに染まった嘔吐物を、黄色のフェザークラフトに滝のごとくぶちまげながら、最後の加速に入った。目指す島は目前だ。

B.シンホワイトライン
 大島の西の地点で、3つのこぶを持つ西島を、島の手前の岩礁だと勘違いして北側にまわる。直ぐに気付いたが引き返さずそのまま西島北岸を通過する。12時ごろ西島と東島との海峡部に達すると、海峡中央で白波が炸裂していた。
 北からの波と南からの波が衝突する度に、狭い海峡の端から端まで真っ白な直線が走り、爆音と共に波が吹き上がる。海峡は浅くて通常でもブレイクしそうな地形やのに、今は大潮の最干時。南北のブレイカー同士が中央で激突してえげつないことになってる。
 いや〜、これまで海で見た中で最高に複雑な波や。波が吹きあがるせいで向こう側が見えないので、南から大波が来るタイミング一切読めず。衝突後に波高が倍増した波も、南北どちらに崩れるかもまちまちです。そういえば、「大島は南北から来る回折波が西側でぶつかって三角波が立つ」って話を店長に聞いたことがあった。地図で上陸地点を確認すると、海峡のすぐ南。どうしようかな〜。
 K-lightのばたやん。フジタファルトでとんでもないところを幾度も下っていて、僕らの中で一番経験豊富。やけど、海は初めてやし船酔いでげろげろに吐いたばっかり。
 カフナの坪。こないだ鷹島と刈藻島に行ったけど、その時は凪いだ内海やったから外波は初体験。そもそもケイバーやし。
 ルクシャWのマルコ。探検部員の例に漏れず打たれ強さはめっぽう強いが、基本的にはケイバー。海は素人さん。
 そして最後にノードカップの僕。久しぶりの海にちょっとびびってます。
 不安要素は満載やけど、GPSは、“あと150m Go!”って言ってる。さすがは機械、躊躇無し。ここからは見えへんけど、東島の岬のホンマすぐ向こうがビーチみたいね。いっぽんいっとく?
 とりあえず3人には海峡北側の比較的穏やかな海域で待機してもらい、僕が様子見に突っ込んでみることに。向こう側に達したら指示を出す為に、前進、停止、後退のパドルサインを再度確認した後、気合を込めて行動を開始した。

C.ケープホーナー
 しかし、なんて荒れ方や。タイミングが良ければなんの苦も無く通過できるけど、タイミングが悪けりゃ大変なことになる。しかもそのタイミングがめっちゃ不規則。
 世界の海には数々の難所がある。例えば南米のケープホーン。南米最南端の荒れ狂う岬を回航し、無事通過した船乗りは“ケープホーナー”と呼ばれ、“風に向かってつばを吐く”権利が与えられるって話。いかにも白人さんらしいものいいや。
 そんな世界レベルには遥かに及ばないけれど、僕らがこの狭くて短い海峡を無事に越え岬の向こうへ達したら、ちょっといい気になってもいいんやない?向こう側まで漕ぎきったら“岩のてっぺんでウンコする”権利をもらおう。
 そう心に決めたあと、岩のないコースに進路を合わせ、ちょくちょく振り向いて北側の波を見つつ前進するけど、前方では予期しないタイミングで大ブレイク。もはやタイミングを読むのを諦め、ちょっと北側が静かになった時、気合を込めて全力で漕ぎ出した。

D.行きて帰りし物語
 海峡中央に差し掛かり、ちょっと南側が見えたと思ったとたんに、すぐ前の海面が大盛り上がり。吹き上がった波は、そのままこちらめがけて崩れ落ちてくる。幸い波に正対してたので、ウェーブスキーで沖に出る時の要領で波を駆け上り、波頭が崩れる瞬間に姿勢を低くしてパドルを槍のように突き刺して突破!ウェーブスキーをやっててよかった。
 と思ったら、間髪置かずに船尾がグッと持ち上げられる感覚。あれ?向かってくるブレイカーを超えたのに、なんでこんなに急斜面で下ってんの?舳先の向こうは水深30cmほどしか水無いでやんの。こんなに浅いはずはないのに。
 ビックリして後を確認したら、背後で特大なやつがこっちに向かって砕ける真っ最中。さっき越えた南からのブレイカーがすぐに北からの波に押し返され、一回り大きくなって返ってくることってあるんでしょうか?どういう仕組みかよく解らないけど、大ピンチなのは間違いなし。このままではバウ沈確定。ウェーブスキーでは幾度もバウ沈くらったけど、全長5.5mのノードカップで縦回転した日にゃ、落差はいかほどでしょう。しかも目の前は水無し。めちゃめちゃ痛そうとか言う前に、バウが海底に刺さって折れたりしたら、本土まで帰れんやんけ。
 ほんと、去年ウェーブスキーをしていてよかったよ。まあ、こんなに上手く行くことはウェーブスキーでもまずなかったけど、見事にサーフィンが決まったね。バウ沈を避けるためフェースを斜めに滑り降り、あちこちからの波が合成して波形が崩れた後はブローチングの姿勢で右手に波を抑えて横滑りして、ついには海峡を南に抜けた。
 やれやれ、もう一回やれって言われても絶対できんな。なんにせよ、会心のパドリングで荒れ狂う死地を無傷で乗り越えた自分に酔ったね。そんなとき、東島を見ると、波が入る向きから陰になる位置に、とても上陸しやすそうな緩斜面の浜。その奥は少し小高くなっていて、やわらかそうに緑がゆれる格好のサイト地。やっとついた。これが約束の地ってやつか。全てを忘れて、あの浜で寝転びたい。そう、全てを忘れて。。。

 忘れてしまいたい奴らが、あの死地の向こうに3人ほど。あっちに3人こっちは1人。不安要素をかかえた3人をこちらに呼び寄せることはありえない。それはもう分かりきってる答え。ならばどうするか、僕が海峡を再び越えるか、あるいは安全策で西島を迂回して奴らの元へ戻るか二つに一つ。しかし、再びかの海峡を抜けるのはなんとしても避けたい。かと言って僕が西島を迂回する間、我らが探検部員の典型的なパーソナリティを備えた奴らがおとなしく待っているはずがない?!
 そうだよ、それだよ!奴ら、声の届かないこの状況で詳細な説明がないまま僕が見えなくなったら、20分も30分間も待機指示を守るわけねえよ。疑問があればまず行動!しかも、目の前に困難な状況があれば、とりあえず突っ込むはずさ。どっちにしろ奴らが死地に飛び込むのは、もう避けられない決定事項なんだ。だいいち西島を迂回なんてだるいこと、、、いやいや。
 ま、なんにせよ、振り返って合図をいっちょう送ってやりゃあ、全ては済むことさ。パドルを立てたら前進。横にしたら停止、横にして交互に上下させたら後退。勿論どの合図を出すかはもう決まってる。そうや笑顔や。とびっきりの笑顔で合図してやろう。ま、表情なんて見えるわきゃねえけど、哀れなレミングどもに天使からの贈り物や。さあ、振り向こう、、、

 って、何しとんねん!
 なんで既に海峡のど真ん中で、沈脱しとんじゃマルコ!
 何すか?ちっとも待機せずに、僕のすぐ後ろについて来てたんか。いくら典型的な探検部員とはいえ、10秒待てんのか?疑問も持たずに行動するなって。
 パドルと艇を放さんのはえらいけど、北に南に、ざっぱん、ざっぱん、押しつ引かれつしている姿をみると、眩暈がしてくるよ。ほんと、ちょっとだけ考えちゃった。気付かない振りしようかなって。ばたやんと坪に任せちゃおうか?って。え?わかってますよ。ああ、そうですよ。僕が引き返せばいいんですよね。初めからわかってましたよ。
 引き返しがてらマルコと舟を北側に引っ張り出して、4人で迂回したらいいんでしょ。ちくしょう。



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