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錦川 リバーツーリング報告書


種別天候日程
リバーツーリング 雨(3)・雨(4)・晴れ(5) 2002年5月3〜5日
1.活動報告
 目的:清流を下る
 場所:山口県岩国
 メンバー:Uk、Wk、Ni、K2、熊(まっきゅ)、Tj、R
 使用艇:K-light(Alファルト)、グモテックス、ミッキー艇
2.詳細
 え、何?錦川の話が知りたいの。ああ、行ったよ。行ったけど、あまり参考になることはないんとちゃうかな。あれやろ、何処から船出して、何処まで下れるかとか聞きたいんやろ。
 そりゃまあ下ったけど、そこらのHPに乗ってる通りやね。だいたい3日間行ったけど川下ったのは晴れた最終日だけで、初日は土砂降りのなかムーバレーってところで地底のムー王国に行ってたし、雨脚が少し弱まった二日目はバーベキューをおよばれしてたから。あっ、そうや。いいサイト地なら知ってるよ。



 そう。サイト地で何度、自問自答したやろ。なんでこんな状況になったんかな?って。昨日から降り続いた雨が昼前になってちょっと弱まったから、昼から少しなら下れると思ったのがあかんかったのかな。ま、昼からやし急いで準備したよ。ファルトを組んで、ダッキーを膨らませて。
 そんな風に結構手際よく準備していたら、Tjが船の様子がおかしいって言いだしたんや。一目見てわかったね、エア漏れしとるって。でもな、その船は初心者が多い今回の活動の要となる二人艇やってん。だからいきなりダメって言うわけにも言えんし、とりあえずエアを入れなおして様子を見てみてん。UkとWkと僕の三人で再びへこんでいく二人艇を眺めながら、お互いの様子をうかがったよ。
 Ukは久しぶりの活動やし遠慮して何もいわんかった。
 Wkは先輩二人に遠慮しとった。
 僕は川下りの経験豊富な二人に遠慮したわけや。
 で、誰も何も言わんからそのまま下ることになった。アホやね。下りだしてすぐ気付いたよ。いや、下る前から知ってたな、大失敗って。雨上がりの川面には一面湯気が立ち上り、幻想的やけど先が全然見えへん。TjとKkが乗った二人艇は見る見るしぼんでいく。100m程下った川原で直ぐに撤収したのはまあ当り前やね。

 その川原はなかなか良い所やってん。広すぎず狭すぎず、増水しても直ぐには浸からない位に川面から高くなってるし、いざって時は直ぐ裏から車道まで上がる道がついていた。鮎漁の番所らしい、すごし易そうなあずま屋もなかなかやった。ちょうどそのときは、あずま屋でバーベキューをしているグループがおって、昼飯を食ってない僕は上陸作業中うらやましく思っとった。
 バーベキューグループの1人が僕に話しかけてきたのは、川原の裏の車道で荷物の撤収が一区切りついたときやった。いや、本当に何言うとるか、まるっきりわからんかった。周りを見ても、他の奴らは僕が話しかけられていることすら気付かないってそぶり。で、とりあえず肩をすくめて情けなさそうな表情をしたら。その人はちょっと驚いた表情で去っていった。僕が話しかけられて困ってんのに知らん振りした熊にちょっと文句を言ったけど、まあ、すぎた事やし良しとしよう。
 でも、さっきの人は直ぐに僕の元に戻って来た。今度はゆっくりと一言一言わかりやすく話しだしたんで、さすがの僕でもいくつか聞き取れる言葉があった。
 “いーと”、“ばーべきゅー”、“つぎゃざー”。
 最後に力強く手招きをして奴は言ったよ、カモン!って。

 そう、僕はノーと言えない日本人、イエスって言っちゃった。ふらふら着いて行くと、あずま屋では3人の外人さんと、7人の日本人が肉を喰うとった。肉を進められたとき遠慮しようかとも思って、上に友達がいるんですって言ったけど、連れといでと言われた。もう断りきれないし、まあ、良いかなと思ってみんなを呼びに行った。だって、実際かなり空腹やったし、日本人もたくさんおったから。
 ビールやら肉やらもらってからしばらくして気付いたけど、どうやら外人さんと日本人は別グループらしい。外人さんは岩国の米軍基地の軍人さん。日本人は地元の方と大阪のおっちゃん。でバーベキューは日本人がやっていて、たまたま一緒になった外人さんがおよばれしていたらしい。そして僕らはその外人さんにおよばれして、肉を食っていたわけや。会話の端々からそんな事情がわかってきた頃、Niの様子がおかしい事に気が付いた。地元のおじいさん相手に、あ〜、あ〜、と横柄な相槌を返している。奴も探検部員やから世間的に見て多少の変なところは有るけど、それでも目上の方に対する礼儀はわきまえていたはず。少し観察しているうちにその訳に気付いた。同じ頃に熊もこの事態に気付いたらしく、二人で両側からNiをはさみ、奴のわき腹を肘でつつきながら注意を促した。
 しかし、Niは相変わらず肩をすくめて横柄な相槌を続ける。熊も必死でNiをつつきながら、相手に悟られぬよう唇を動かさず、つぶやくようにNiに囁きかける。「ぬほんずんっ、ぬほんずんっ。」しかし、二人の警告に注意を払うことなく、ついにNiは派手なゼスチャーで恐ろしいことを口にしてしまった。「パードゥン?」

 それにしても、今日の熊はおとなしい。いつもなら酒が入った瞬間に限りなく無礼で限りなく役立たずなトラブルメーカーになるんだけど、今日は冷静でおとなしい。よく見ると大好きな酒に口をつけてないようだ。ああそうか、こいつも僕と同じで人見知りが激しい上に外人さんが怖いんで、早くこの場を離れたいんだ。酒を飲んだら長居することになるから控えていたのか。まあ、他の奴らも多かれ少なかれ早くこの場を立ち去りたいって思っているみたいや、腹もふくれてきたことやしそろそろお暇するか。そう言えば、さっきUkが車のキーをもって上に上がって行ったな。あいつも移動したいんやな。じゃあ、皆でお礼を言うため、Ukを呼びに行こうかな。
 あずま屋の裏に回って、僕は目を疑ったね。どうしてUkがいないの?なぜ車がないの?その時誰かがつぶやいた。「ヤロウ逃げやがった」って。視界の端では熊が、それまで口にすることのなかったビールを一気に流し込み、続けざまに2本目を手に取っていた。熊め、全速力で現実から逃れようとしてやがる。
 30分ほどして、やっとUkが戻ってきた。何処に行っていたのか問い詰めようとしたが、奴が持っている小箱が気になる。何持ってんね?え、肉?追加の肉取って来たの?え、おっちゃんに言われて家まで行ってたって。もうたいがい腹いっぱいやのに、、、。


 ついに追加の上手い鶏肉も食いつくし、いよいよ立ち去ろうかと思いだした時、他の二人は基地へ帰ったが、ここでキャンプすると言って一人だけ残っていた外人さんが何か言ってきた。
“昨日は何処でキャンプしたのか、今日はどうするのか?”
 ここは慎重に答えなければいけないところだ。一つ間違えれば危険な事態に陥る。単語の羅列で通じるかわからないが、用心して僕は答えた。
“昨日は快適な無人駅に泊まり、今日も同じ所で快適にすごすつもりです。”と。
 すると彼は、予期していた事を言い出した。
“おお、それならここで泊まるといい、場所は一杯あるし快適だ”と。
 ここは、すっとぼけるのが一番と思い理解できないってゼスチャーをしていると、余計なことに、帰り支度を始めていたバーベキューグループの日本人が間に立って通訳してくれた。こまったな、僕はノーを言えない日本人。「じゃあ、リーダーに聞いてみます。」と言ってWkに話をふると、奴は昼間からこうこうと燃える焚き火に目をやった。嫌な予感がする、Wkは極度の焚き火マニア。あずま屋の裏には大量の丸太が転がっている。奴は恐れていた通りの答えを口にした。「じゃあ、いい焚き火もあるしここでサイトしましょう。」外人恐怖症の僕や、人見知りの熊のことなど、焚き火の前では無に等しいのか?しかし、決まってしまった以上仕方ない。あとは、“サイト地は同じでもあくまでただのお隣さん、一緒に飯食ったり酒飲んだりは無しよ”ってな感じで行くしかない。とりあえず今は温泉にでも行って今後のことを相談しよう。その時、視界の端に恐ろしいものをとらえた。熊、いや、もはやあの人見知りで首をすくめて小さくなっている無害な小動物はいなかった。そこには小さな体で限りなくデカイ態度をとり、米国軍人トラビスと互角に渡り合う“まっきゅ”の姿があった。そして、あろうことか奴はバシバシと外人さんの肩を叩きながら口走った。
「レッツ ホットスパー ツギャザー ウィー。カモン!」

 誰かあの危険な野獣をとめてくれ。

 まっきゅの暴走は車の中でも止まらなかった。自動車内と言う狭い空間で米国軍人さんと一緒にいるプレッシャーから僕がなかなか口を開けないでいると、奴はなんの躊躇もなく話し出した。
「ドゥーユーシンク ユダヤ アーンド えー、Rさんもう一方って何でしたっけ?」
 僕は鼻血が出そうでした。僕もパレスチナ問題に関して、日ごろ米国やイスラエルに対し批判的な意見を述べていますが、なにもこんなときに、知り合ったばかりの米国軍人さんと狭い車に一緒の時にそんなデリケートなところに直球勝負をかけないでくれ。キミは日本人だろ。もうこれ以上、まっきゅに口を開かしてはいけない。そう思った僕は少ない語彙とあやふやな文法で話題を振り、悪い耳で答えを必死で聞き取り、何とか当り障りのない会話をつないだ。

 あなたはどんな軍隊にいるのですか?海軍ですか?陸軍ですか?空軍ですか?それとも海兵隊ですか?おお、海兵隊!私は知っています。海兵隊は最も強く有名な軍隊だ。あんたは勇気が有るぜ。おおブラザー!そいつぁークールだ。アミーゴ。

 人間追い詰められたら何でもできるものですね。あれだけ苦手な英語が多少通じるような気がしてきました。少々アイデンティティーを失いつつあるけど。まあ、話ができるとだんだん恐怖も薄らいでいきます。外人さんで軍人さんでも、相手も人間であることにはちがいありません。知らない人だったから怖かったけど、よく話をして一緒に裸で風呂まで入ればもうすっかり知り合いです。それにトラビスさんは、僕がわかるようにゆっくりゆっくり何度でも繰り返して話をしてくれるいい人でした。どんなに僕が聞き取れなくても、舌打ち一つせず丁寧に話をしてくれました。初めてアメリカ人の友達が出来た瞬間でした。帰りの車ではすっかり打ち解け、体を洗う前に湯船に浸かったトラビスさんに説教までたれてしまいました。さて、サイト地に帰ろうか。

 サイト地に帰りついたとき、薄暗がりのなかで彼はスポーツカーのヘッドライトを背に受けて立っていた。黒のロングコートに190cm位の長身を包み、両手はコートの前を割るように、ズボンのポケットに突っ込まれている。コートの裾が風になびくその姿は、まさにマトリックスのキアヌリーブス、、、
  ・
  ・
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 誰すかあれ?
 トラビスさん、知り合い?え、お友達ですか。えっ、他にもたくさん友達が来てるはず!
 ふーん、そう。やっぱりサイト地ではただのお隣さんって事で、あまり関わらないようにしますね。さて女の子達は夕食の材料を買出しに行ったから、Niと熊と僕とでテントの設営でもしとくか。そう思って荷物を担いで川原に下りたとき、視界の端に見てはならないものを見てしまった。

 奴はまだいたのか、、、。
 風呂まで入って、もうすっかり元に戻っていると思っていたのに、、、。
 サイト地に戻ったのが、僕とNiと熊ではなかったとは、、、。
 おそるべし、、、まっきゅ。

 車から降りて僅か3分と経っていないのに、奴はすでに外人さん3人相手にいっき飲み勝負を繰り広げてやがる。しかも、外人さん一人づつと。外人さん一杯につき、まっきゅ三杯。僕とNiとでテントを設営し終わる頃には、外人さんもあまりのハイペースに浮き足だっていた。
 (※ここから)そのうち一人が席を立とうとした時、無敵まっきゅは、ついに力の片鱗をみせる。腰を浮かした相手の鼻先に人差し指を突き立て言い放った。「シッダウン!シッダウン!」外人さんがあまりのことに言葉を失い、腰が砕けるように席につくと、無敵まっきゅは、指を突き立てたまま言い放つ。「ユアネーム?ユーネーム?アイム、まっきゅ!ユーネーム?」慌てた僕が、まっきゅの指をつかみ無理やり折り曲げる。やめなさい、この人たちは素手でも簡単に人を殺せる方々やぞ。Ni?Niはどこに行った?奴めばっくれやがったか。そんな中、外人さんが驚きつつ、さっきも名乗った名前を再び名乗ると、まっきゅは無理やり乾杯を迫り一気に飲み干す。
(読者へ質問:まっきゅはまだ元気ですか? Yes→※印から繰返す No→次の行へ進む)

 買出し組みが帰ってきたとき、もはやそこにまっきゅの姿はなかった。しかし、彼は一人で力尽きたわけではない。あの米軍を三人も相手に奮戦し、さらに他の米兵の増援があったにも関わらず、ついには一人沈めたのだ。ああ大和魂、ご当地山口県の吉田松陰も草葉の陰で涙ぐんでいるだろう。そう、僕だって泣きたいさ。六人用テントの中で、夕飯まえから寝ゲロしやがって。
 しかし今はそんな犠牲に捕らわれている場合ではない。これからのことを考えなくては。まずは現状を把握しよう。いったい何人いるんだ。一人また一人とやって来て、今では僕らよりも人数が多いぞ。多すぎる。これでは、“仲良くなってしまえば相手も同じ人間さ計画”が台無しだ。なんでこんな状況になったんかな?途方にくれて夕飯を食べていると、トラビスさんがやって来て僕らの失敗したラーメンを美味しそうに食べてくれた。やっぱあんたはいい人や。でもな、あんたと話をしたおかげで少しだけ英語が聞き取れるようになってるこの耳に、他の人らが言っている事が聞こえてくるねん。ほら、トラビス モンキーどもと何してるって。いったい何人いるんや?なんでこんな状況になったんかな?
 長い夜やった。外人さんは、二人帰ったと思ったら、また三人やって来て、そのうちまた一人帰っていく。入れ替わり立ち代り一体誰が誰だか。UkとKkは英語がわかってそうやったが、他は僕も含めてイエスマンと化していたな。Tjはお持ち帰りされそうになっていたらしく、Kkがやんわり受け流してくれてよかったね。僕はゆっくり丁寧に話してくれる人、舌打ちしない人、少しでも仲良くなれる人を探して話つづけた。おかげで何人かと仲良くなれた。ポーランド出身でアメリカに移住したハーレダビッドソン乗り。日本人の奥さんがいるMR2乗り。夜中にべろべろになりながらも基地に帰っていく時、“私はこの美しい場所が大好きです。どうかゴミを捨てないで”と言いながらゴミを拾い集めていたマトリックスコートのサニーさん。そしてトラビスさん。
 やがて、トラビスさんはテントに入り、他の外人さんも皆帰って、うちのメンバーも皆寝静まったあと、真夜中に一人で焚き火を見ながら思った。心も体もくたくたに疲れたけど楽しかった。ああ、いいサイト地だって。
 翌朝、最終日にしてついに快晴になっていた。目覚めると昨日バーベキューをしていた日本人たちがやって来て、トラビスさんを起こして挨拶だけして帰っていった。残された僕とトラビスさんは、結構親しくなったつもりだったけど、マンツーマンになるとお互いに会話に困ってしまった。うちのメンバーはおそらく目覚めている様子だけど、テントから出てこない。とりあえずトラビスさんが釣りをしようと言い出したので二人で川におりてチャレンジしたけど、トラビスさんの腕は僕から見ても下手くそやった。“そんな毛鉤ではイモリもかからんぞ”と言ってやりたかったけど、英語がわからなかった。
 そのうち昨夜帰ったラウルさんが再びやって来た。そのとき僕はふと疑問に思って聞いてみた。確かノーチレイはフランス軍用と謳っていたが、海兵隊はカヤックに乗るのかって。でも、二人ともカヤックは乗ったことがないとのこと。おお、出会ってからこれまでずっと主導権を握られていたけど、これなら海兵隊に勝てるかも。さっそくフェザーを組み立てて、とりあえずトラビスさんを乗せてみた。ダッキーにせずファルトに乗せるあたり、おいらの腹黒さ全開だ。
 しかし驚いたことに、乗艇の方法とフォワードストロークを教えただけで、トラビスさんは上流下流へと自在に舟を操りフェリーグライドで、川を横切って帰ってきた。すげえや海兵隊員。ま、とりあえず勝ち負けは置いといて、朝飯でも食うか。
 皆起きだしたが、相変わらず熊はゲロまみれで動かない。せっかくの快晴だけど、こいつはお留守番やな。さて、朝飯を食ってると、トラビスさんとラウルさんが嬉しげに何かを抱えてやってきた。あ、まさかそれは、、、


 結局 こんなんやら、 こんな風 になってしまったけど、今でもアメリカの諸外国に対する姿勢には納得していません。でも、アメリカにも仲良くなれる人達がいたのはとても嬉しかった。

 さて、前振りが長くなったけど、川下りに出発しよう。1日だけになったけど、この快晴の空のした錦川を楽しもう。



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